天気が悪いと頭痛や関節痛に、「気象病」について今わかっていること、自分でできる対策は
「天気痛」とも言われる痛みや体調不良、気圧と気温は心臓にも影響
神経科医ウェルナー・ベッカー氏が担当していた片頭痛患者の多くが、頭痛の引き金として天気を挙げていたという。嵐になって気圧が下がると、片頭痛の症状が悪化するというのだ。カナダ、カルガリー大学カミング医学大学院臨床神経科学科の名誉教授である氏は、「自分は『人間気圧計』だと言う患者さんが何人かいました」と言う。 ギャラリー:炎症を抑える食べ物とは、病気の進行やがんの治療にも影響 写真6点 また、関節炎や線維筋痛症(せんいきんつうしょう)の患者のおよそ3人に2人が、荒天時には関節や筋肉の痛みが強くなると報告している。さらに、天気が変化すると、その地方で痛みの症状に関するネットでの検索数が増えるという米国での研究や、片頭痛や慢性の痛みを持つ患者の約70%が天気によって予定を変えると答えた米ジョージア大学の調査もある。また、天気の変化は、心臓の健康にも関連している。 天気が体に及ぼす影響についての研究は何十年も前から行われているが、まだよく分かっていないことが多い。なかでも痛みと気圧の関係を調べる研究は多いが、その結果はまちまちで、天気によって本当に痛みが強くなると主張する患者たちに歯がゆい思いをさせている。 天気による体の不調や痛みは「気象病」や「天気痛」と呼ばれている。以下では、天気が健康に及ぼす影響について現時点で分かっていることと、私たちにできそうな対策を紹介しよう。
片頭痛
片頭痛は激しい発作性の頭痛で、患者はしばしば吐き気に悩まされたり、光に対して過敏になったりするが、根本的な原因はまだ解明されていない。研究者たちは、脳の異常な活動が頭痛を引き起こしている、あるいはいくつかの遺伝子が痛みの発作を起こしやすくしているのではないかと考えている。 片頭痛と天気との関係についてベッカー氏は、2000年に発表した研究で、片頭痛患者の30~40%がチヌーク(北米のロッキー山脈の東側を吹き降ろすフェーン風)の前日または当日に発作を訴えることが多いと報告している。しかし、2024年2月に発表されたレビュー論文では、天気と片頭痛の相関関係について、最近の研究ではあるという結果もないという結果も得られていると報告しており、どちらとも言えない状況だ。 天気と片頭痛の関係がはっきりしないのは、誘因があっても、それが必ずしも片頭痛を引き起こすとは限らないからではないかと、片頭痛の専門家で英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)の臨床講師である神経科医のヤン・ホフマン氏は推測している。 ホフマン氏によると、片頭痛の誘因は、天気の変化のほかに睡眠不足からカフェインの離脱症状まで何十種類も知られているが、そのほとんどが日常生活の急激な変化に関連しているという。しかし、これらの誘因は片頭痛の発作が起こる可能性を高めるだけで、常に片頭痛を引き起こすわけではないのだ。 ホフマン氏によれば、天気の悪い日に片頭痛が悪化するのは、気圧の変化が原因である可能性が高いという。その生物学的メカニズムとしては、「気圧の変化が脳の特定の領域の活動を活発にするから」「中耳の気圧の変化により、協調運動や平衡感覚をつかさどる脳領域の活動が活発になるから」「気圧の変化により血管が収縮し、脳への血流が変化するから」などの仮説がある。 しかし、天気の悪い日には気圧だけでなく気温や湿度も変化するので、気圧の影響の大きさは厳密にはよく分からないと氏は付け加える。 【対策】天気の影響を受けにくくするため、ホフマン氏は患者に、規則正しく十分な睡眠と食事をとることと、ストレスマネジメントの実践を勧めている。これらは言うほど簡単なことではなく、片頭痛を完全に防ぐこともできないかもしれないが、「少しは違うと思います」と氏は話す。