『新宿野戦病院』が“もったいなかった”理由とは? 夏ドラマ振り返り座談会(3)最も面白かった作品は?
2024年夏期ドラマを振り返るドラマ座談会を開催。『海のはじまり』や『西園寺さんは家事をしない』など注目度の高い作品を中心に、3名のドラマライターがそれぞれの魅力を深掘りし、共感ポイントや俳優、脚本の魅力に迫る。ドラマファン必見の座談会レポートをお届け。今回は第3回。(文・編集部)
“クドカン”の新たな挑戦を感じた『新宿野戦病院』
―――宮藤官九郎さんが脚本の『新宿野戦病院』(フジテレビ系)もまた、『海のはじまり』同様に、世間の賛否が割れた作品です。御三方から見て、この作品の良かったところと惜しかったところ、両方お聞かせください。 まっつ「『新宿野戦病院』は1話と、ラスト2話が猛烈に良かったです。特に終盤は『俺の家の話』(2021、TBS系)を彷彿とさせるような、宮藤官九郎さんが新たな挑戦をしているという気概を素人ながらに感じました。最終話で、小池栄子さん演じるヨウコ・ニシ・フリーマンが『ミヤネ屋』のような番組で主張するシーンも、メッセージ性があって面白かったですし、ラストも良かったです。ただ、中盤あたりで“クドカン”特有のユーモアについていけなくなった人が、一定数いるのではないかと」 苫「宮藤さんは、不寛容や偏見みたいなものが、コロナのような窮時に爆発するということにこだわって脚本を書かれたと思います。そういったメッセージ性が発揮されるのは物語後半で、前半~中盤は、ホームレスやトー横キッズなど個々のケースに焦点を当てていたので、テーマが上手く見えてこなかった面もあるのではないでしょうか」 あまの「テーマが多方面に広がりすぎたのかもしれません。刺さる人にはしっかり刺さるものがあったのに、個々のエピソードが独立し、話が繋がっていないように見えてしまうところもありました」 苫「確かに個々のエピソードがバラバラさは感じました。思い返してみると、濱田岳さん、仲野太賀さん、橋本愛さんの三角関係も、必要だったのかと言われると…。途中、仲野さん演じる享がヨウコを少し好きになりかけるシーンもありましたが、あれは一体何だったんだろう(笑)」 あまの「宮藤さんは、視聴者に向けてたくさんのボールを投げて、どう受け取るかを試しているところがあると思います。最終的に未知のウイルスが登場する展開も、序盤から匂わせていればもっと効果的だったかもしれません。面白かった一方、もし同じ題材でTBS制作のドラマならどのような形になったのか、と想像もしてしまいます。個人的には、ドランクドラゴン・塚地武雅さん演じる堀井しのぶのエピソードが特に好きでした」 ―――堀井については、放送開始前に番組HPの説明文をめぐって炎上したという経緯がありました。 苫「堀井のお話は、蓋を開けてみればとても良いエピソードでしたし、宮藤さんが茶化さずに誠実に向き合って書かれたことが伝わりました。炎上の件で、離れてしまった人がいるとしたら物凄くもったいないです。 宮藤さんは、書きながら常にご自身の中でブラッシュアップされる方ですし、『新宿野戦病院』は、多様性を謳う現代の中でも、まだ透明化されている人たちを取り上げていますから。このドラマを全く見ていない方も、途中で脱落してしまった方も、ぜひ最後まで見て欲しいです」 【出席者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。 【出席者プロフィール:あまのさき】 アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。 【出席者プロフィール:まっつ】 1993年、東京生まれ東京育ち。本職はスポーツウェブメディアの編集者だが、エンタメ・お笑いライターとして修行中。1週間に20本以上のラジオを聴く、生粋の深夜ラジオ好き。今一番聴くべきラジオは『霜降り明星のオールナイトニッポン』。好きなドラマは『アンナチュラル』、『いちばんすきな花』、『アンメット』。
編集部