「ここまで悔しすぎる1か月は…」C大阪、西尾隆矢が反省する一瞬の判断。屈辱のアジア杯を経て「本当に…」【コラム】
明治安田J1リーグ第14節、FC町田ゼルビア対セレッソ大阪が15日に行われ、1-2でホームチームが勝利した。C大阪に所属するDF西尾隆矢にとっては、これがAFC U-23アジアカップカタール2024参戦後、初のリーグ戦に。同大会で悔しい思いをした若きDFには、まだまだ多くのものが求められている。(取材・文:元川悦子)
●アジアカップで屈辱「ここまで悔しい1か月は…」 5月15日はJリーグの日。31年前の東京ヴェルディ対横浜マリノス戦で幕を開けた時点では10クラブしかなかったリーグも今では60クラブに拡大。今季J1初昇格を果たしたFC町田ゼルビアが堂々の優勝争いを展開している。 その町田に挑んだのがセレッソ大阪。彼らも95年からJリーグに参入した後発組だ。クラブ創設30周年の今季は悲願のタイトル獲得を目指し、田中駿汰やルーカス・フェルナンデスら即戦力を補強。序盤5戦無敗で一時首位に立つほどの快進撃を見せたが、4月21日の名古屋グランパス戦で苦杯を喫してから停滞。5月11日のヴィッセル神戸戦まで5戦未勝利という苦境にあえいでいる状況だ。 「主力のケガ人が出たのに加え、我々のサッカーに対して他チームの研究が進んでいるのが勝ち点を上積みできていない要因」と小菊昭雄監督は前日会見で語っていたが、毎熊晟矢や登里亨平、カピシャーバらのケガが今のチームに重くのしかかっているのは紛れもない事実と言える。 こういう時こそ、フレッシュな戦力の台頭が求められるところ。その筆頭と言えるのが、AFC U-23アジアカップカタール2024から戻ってきた西尾隆矢。ご存じの通り、彼は同大会初戦・中国戦でまさかの一発退場を食らい、3試合出場停止処分を受けた。その間に木村誠二(鳥栖)や高井幸太が急成長。準決勝・イラク戦以降は出られる状態になったものの、ピッチに立てたのは同試合の後半アディショナルタイムからの数分間のみにとどまった。「大岩ジャパンの守備陣の大黒柱」と位置づけられていたDFにとっては不本意以外の何物でもなかったはずだ。 「日本が優勝したことはすごく嬉しかったけど、ここまで悔しすぎる1か月間はここまでの人生でもなかった」と負けず嫌いの男は内に秘めていた感情を改めて吐露した。その悔しさを晴らすのはピッチの上しかない。 ●同期の藤尾翔太との対峙「怖さは…」 「西尾は五輪予選で厳しい経験をして戻ってきましたけど、日頃と変わらず高いリーダーシップとモチベーションを見せ、チームを引っ張ってくれている。日々のトレーニングに全力でのぞむ姿勢は素晴らしいし、この連戦では彼の力が非常に重要になる」と小菊監督も大きな期待を寄せ、キャプテンマークを託して町田戦に送り出した。 となれば、長身FWオ・セフンら絶好調の町田FW陣を確実に止めるしかない。西尾率いるセレッソ守備陣は高い集中力を持ってゲームに入った。序盤はセレッソユースの同期でU-23日本代表の仲間でもある藤尾翔太のスピードに手こずる場面も散見されたが、「翔太のことは分かっているので、怖さはなかった」と余裕を持って対応していたという。 オ・セフン目がけてタテへタテへ蹴り出してくる相手の攻撃は確かに厄介ではあったが、西尾は要所要所で体を張って阻止。前半は無失点で乗り切ることができた。 スコアレスのまま迎えた後半。セレッソは温存していたレオ・セアラやルーカス・フェルナンデスら攻撃のキーマンを次々と投入し、貪欲にゴールを狙いに行った。進境著しい右サイドバック・奥田勇斗がボランチの位置まで上がり、田中駿汰ら中盤も流動的に動くという可変スタイルも攻めの迫力と推進力をもたらし、彼らは後半だけで9本のシュートを打った。 しかしながら、決定機をモノにできないのが今の課題。そうなると逆に町田に一瞬のスキを突かれることになる。70分の1失点目はまさにそうだった。ルーカス・フェルナンデスが左から仕掛け、攻め込んでいたボールを途中出場のナ・サンホに拾われ、藤尾、鈴木準弥とつながれたことで、瞬く間に劣勢に陥ってしまったのだ。そこから右のオープンスペースに走り込んだナ・サンホが中に折り返し、オ・セフンがゴール。背番号90の前にいた西尾はクリアしようと懸命に足を伸ばしたが、止めきれなかった。 ●「町田と戦って収穫だったのは…」 「相手のストロングポイントを自分たちも警戒していた中で、前に多く人数をかけていた分、仕方ないところはあると思う。ただ、自分自身もクロスに対してもう少しいい準備ができたのかなと。本当にたらればですけど、一瞬の判断のクオリティを上げないといけない。そこは僕の個人戦術になってくるので、もっと突き詰めていかないといけないと思います」 西尾は反省の弁を口にしたが、まさにその“一瞬の判断”の重要性をカタールでも痛感してきたばかり。手を払いのけただけで悪質なプレーと見なされる怖さ、わずかなスキが命取りになる厳しさを彼は学んで戻ってきた。そのうえで、今度はオ・セフンに決められたのだから、悔しさはひとしおだったはず。もちろん今回の失点は彼1人の責任ではないが、守備の要としてリスク管理、組織の再構築含め、やるべきことは少なくないはずだ。 その後、セレッソはレオ・セアラのPKで同点に追いついたが、後半ATにまたもクロスから失点してしまう。このシーンでは左サイドの高い位置を取っていた林幸多郎がクロスを上げた瞬間、エリキと荒木駿太がゴール前に侵入。西尾と鳥海晃司がそちらをケアしている間に大外からミッチェル・デュークに飛び込まれる形だった。 終盤のセレッソは決勝点を取りに行く意識が強く、前がかりになっていた分、後ろとの距離が空いて間延びしてしまった。終盤ピッチに立った清武弘嗣は「後ろの選手たちは疲れていたし、途中から出た選手たちが感じて配慮してあげないといけなかった。正直、1-1でもよかったのかもしれない。そのあたりのゲームコントロールはもっとできたし、チーム全体の課題だと思う」と悔やんだが、西尾ら最後尾の面々からもっと声を出し、全体を落ち着かせてもよかっただろう。 結局、試合は2-1で終了。セレッソは6戦未勝利・3連敗で8位まで順位を下げることになった。自らのチーム復帰戦を白星で飾れなかった西尾にしてみれば不完全燃焼感は強かったに違いないが、ここで下を向いているわけにはいかない。リーダーの1人として士気を高めていく必要があるのだ。 「町田と戦って収穫だったのは、いろんなタイプのFWと対峙できたこと。長身の選手、スピードある選手、体が強い選手と次から次へと違ったタイプが入ってくるんで、やりづらさはありましたけど、本当にいい経験になった。これを先につなげないといけない。決してネガティブになることなく、前を向いていくしかないと思っています」 ほろ苦いリスタートを切った西尾。DFというのは失点やミスから成長できる部分は少なくない。若き日の吉田麻也(LAギャラクシー)や板倉滉(ボルシア・メンヒェングラートバッハ)らもそうだった。ここ1か月の苦しみを糧にすることしか飛躍の道はないのだ。 (取材・文:元川悦子)
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