リアルさと生活感にこだわり アイデアマンがつくる昭和の街角
新年が明け、「今年はどこに行こうかな?」なんて旅の計画を立てる人も多いのでは。東海地方にはまだまだ知られていない魅力ある場所が眠っている。行ってみたくなる、そして誰かに教えたくなる。そんな魅力あふれる珍スポットを記者たちが訪ねた。 路地に並ぶ駄菓子屋や電器屋、民家のちゃぶ台には食べかけの食事、天井からつるされたハエ取り紙――。昭和の街角にタイムスリップできる場所が老若男女を引きつけている。 その名もずばり「昭和の街角展」。愛知県大府市の市歴史民俗資料館で常設している人気のコーナーだ。館が収集した昭和時代の家電やおもちゃなどを展示するほか、民家の居間などを再現して当時の暮らしを伝えている。 「こだわったのはリアルさと生活感です。古い物も、お店に並んでいるとよりリアルでしょう?」。こう話すのは、展示を手がける館の非常勤職員、あいばまさやすさん(71)。 民間企業を退職したあいばさんが館に着任したのは2013年。当時の展示室は駄菓子屋があっただけで、部屋の半分は農機具が並んでいた。暮らしの展示もあったが、代わり映えしない。知人に「来てよ」と誘っても、「前と同じでしょ」と断られる始末。さて、どうしたものか――。あいばさんは考えた。 「展示内容を変えないとお客さんも来てくれない」。まずはちゃぶ台の上を夏はそうめん、秋はサンマなどと季節ごとに変えることにした。「料理」は紙粘土や発泡スチロールなどで手作り。食事をわざと食べかけにするなどして、ついさっきまで誰かがそこにいたような、そんな「生活感」を大事にした。 同時に進めたのが商店づくりだった。資料館の倉庫内は当時、市民から寄贈された「お宝」であふれていて、「展示室より倉庫の中の方が充実していた」(あいばさん)。そこで、まずは30台ほどあったカメラを一堂に並べるべく、カメラ屋をDIY。他施設の取り組みも参考にしながら、電器屋、おもちゃ屋と年々増やし、8年かけて5店が連なる現在の商店街に仕立てた。ついでに往年のヒット曲も流れるようにした。 中高年層からは「懐かしい」「見応えがある」と好評で、「何回来ても楽しい」とリピーターも続出。認知症の対策や予防にと、市内外のデイサービス利用者の来館も多い。昔使っていた物を見たり思い出を語り合ったりすることで脳を活性化させる心理療法「回想法」としての活用だ。 一方で近年は、若者の間でも「レトロで可愛い」とひそかなブームに。日本の生活に関心を持つ外国人観光客の姿も見られるという。 絵本や紙芝居作家の顔も持つあいばさん。24年からは、来館者からリクエストを受ければ自作の紙芝居をその場で披露する取り組みも始め、立ち寄った人を楽しませている。 「彼の熱意と思いが来館者に伝わっている」と信頼を寄せる近藤恭史館長は、あいばさんを「アイデアマン」と評する。そのあいばさん、「楽しいだけでなく、また次も来たいと思ってもらえる資料館を目指しています。繰り返し来てもらえるような仕掛けを次から次へと出していきたいですね」とにっこり。さて、アイデアマンの次の仕掛けは何だろう?【町田結子】 ◇大府市歴史民俗資料館 JR東海道線・武豊線「大府駅」を下車、県道253号をまっすぐ北東方向へ歩いて約10分。開館時間は午前9時~午後6時。休館日は月曜、毎月最終金曜、年末年始(12月28~1月4日)。入場無料。