短命化したLEDランプ、乱立する規格 LED照明ブームがもたらした“混沌”と“狂熱” ~照明業界 未来予想図~
2011年以降、急成長を遂げたLEDランプとLED照明器具。しかし、その後は全く異なる市場の推移を見せる。 【関連写真】LED直管ランプは12年に急成長したが、すぐにピークアウトした LEDブーム初期(11~13年)はLEDランプが市場を席巻。それ以降はLED器具が主流となり、LEDランプは大局的に「ブリッジ(つなぎ)商材」に留まることとなった。 ◆短命化したLEDランプ LEDランプは、金額ベースでは12年に急成長を遂げているが、実は13年から早くも市場が縮小していることが分かる。それに対し、LED器具は13年以降も堅調に推移。「LED化率」と呼ぶ、照明器具全体に占めるLEDの構成比は上昇の一途をたどる。 これら2つの市場の差には、大小さまざまな要因やトレンドが含まれる。ただ、特に大きな要因として挙げられるのは、「LEDランプが過当競争によって短命化した」ということだ。 まず急速な価格下落によって、数量の拡大に対し金額の伸びが鈍化した。さらに普及に伴い販売数量に勢いがなくなってくるとマイナス成長に陥った。仮に1年で価格が半減した場合、販売数量を2倍にしてやっと市場を維持できる計算で、LEDランプ市場ではこうした事態が実際に起こっていた。 また成長を減速させる要因となったのが、不良品や事故の発生件数の増加だった。異業種からの参入に加え、新興企業や販売事業者が増えた半面、危うい品質の製品も多く出回るようになった。 同時に、LEDの導入を急ぐあまり、短期間で多様な施工方式が混在し、工事・施工業者の安全配慮に対する認識にも差異が生じる事態が発生。LEDのフリッカリング(ちらつき)や電磁波・ノイズの発生、ランプの落下や発火など、蛍光灯などの従来光源では起きなかった事故・事案が急増した。特に既存の電源や器具をそのまま使い、ランプ部分だけを交換していた、蛍光灯を代替するLED直管ランプは、メーカーによって電源方式や品質水準のばらつきが大きかった。そのため、安全性の問題が重大化し、市場の短命化につながった印象だ。 こうした事態は、LEDランプの普及初期から懸念されていた点だった。そのため、「品質・安全基準を下回る粗悪品の流入が市場全体の信用低下を招く」ことを防ぐために、業界団体である日本電球工業会(JELMA、現在の日本照明工業会)は10年10月、LED器具に装着するLED直管ランプの規格「JEL801」を策定した。 この規格に準拠したLED直管ランプは、従来の蛍光灯で使っていた口金規格「G13」と互換性を持っていなかった。そのため、導入には規格に準拠したLED器具とLED直管ランプが必要で、品質や安全性が担保されたLED照明として市場への流通が期待されていた。 業界団体によって、蛍光灯を代替する業界標準規格のJEL801が制定された。短期的な視点では、従来光源メーカーにとって、G13によるLED直管ランプを安易に販売することはできなくなり、交換需要の機会を多少なりとも逃すことになったとも言える。 ◆乱立する規格 LED直管ランプを巡っては当初、業界内でも混沌とした状況だった。実は10年10月、JEL801の発表と同じ日に、ランプメーカーの1社が「従来口金はG13を採用しつつ、口金からではなく別口から給電するLEDランプ」を発表した。同じ日に業界団体の方針とは異なる規格がいきなり発表されたわけだ。その後、この方式は「JEL802」として規格化されることになった。 こうした事態が起きた背景には、業界特有の内向き志向が関係していたと見られる。業界団体内で発言力のある限られた企業(大手企業)によってJEL801が策定されたこと、そして従来のビジネスモデルを維持するために、従来光源、特に蛍光灯と互換性のあるLED直管ランプを規制面で抑制しようという意向――などが働いたようだ。 一方、LED器具は、ランプと異なり器具全体を新たに設計・開発・製造し、品質管理も行う必要がある。販売する商流や電気工事・施工も安全面で担保された状態で流通していた。 また普及についても、白熱電球やハロゲン電球などが用いられていたダウンライトやスポットライト、いわゆる局所照明と呼ばれる製品からLED化が始まった。その後、蛍光灯を用いるベース照明、白熱電球よりも高効率・長寿命なHIDランプが用いられる屋外灯や高天井器具などの高出力照明といった形で、順を追ってLED化が進んでいった。なお、自治体などの管轄する道路・屋外照明は10年前後からLED化に踏み切る事例も見られた。 LED器具は、器具ごと交換することで導入コストはかかっても安全性が高い上、光源のみを交換するLEDランプと異なり、より最適化された形状・配光設計、省エネ性で製造できた。そのため、LED器具による交換が次第に主流となっていく。 ◆世界に8年先行 ただ、安価で交換可能なLEDランプの需要が消失したわけではなかった。LEDランプは中小規模のユーザーを中心に採用され、補完的な位置づけで市場が継続していた。 15年頃には、ほとんどの製品はLED化のめどが立ち、新興企業の勃興も鎮火。照明市場における各製品カテゴリーでのシェアも固まり始め、大勢が決することになる。この時期の日本市場は、世界的にも極めて高いLED化率となっており、LED照明のトップランナーとして、5~8年先行した市場となっていた。 あえて逆の見方をすれば、世界におけるLED化率の進展は、東日本大震災というトリガーが発生しなかった場合の日本がたどる推移だったと言えよう。そのため、市場シフトが短期間で起こったがゆえの“混沌”と“狂熱”が日本にはあった。具体的かつ詳細な事例を挙げるときりがないほどに、大企業から中小企業、多数の新規参入企業も、渦中に巻き起こった悲喜こもごも、泡沫のごとく消失していった。まさに「LEDバブル」だった。 LEDバブルが弾けても市場は続いていく。ここから、照明発展の新たなベクトルが注目されるようになり、現在へと続く「照明制御・ソリューション」を模索する時代へと突入していく。 執筆構成=富士経済・石井優
電波新聞社 報道本部