『ベイマックス』に『ズートピア』、『モアナと伝説の海』まで!ディズニー・アニメーションで描かれてきた感動必至の“バディ”をプレイバック
一見、個性がまったく異なる2人のキャラクターが、時間をかけて少しずつ互いを認め合い、協力しながら大きな困難を乗り越えていく――。いつだって観る者の胸を熱くする“バディもの”は、そんな凸凹な関係性の化学変化が大きな魅力だ。 【写真を見る】ウサギの新米警察官ジュディとキツネの詐欺師ニックが連続行方不明事件の解明に挑む 時代を超えて愛され続けるディズニー・アニメーション映画にも、バディが活躍する作品は数多い。現在公開中の新作『モアナと伝説の海2』もその1つで、主人公のモアナと半神半人の英雄の名コンビが再会し、新たな仲間と共に航海へと繰りだす。本コラムでは、これまでのディズニー・アニメーションに登場した印象的なバディたちを振り返ってみたい。 ■ハワイの少女とエイリアンが築く友情『リロ&スティッチ』(02) ハワイのカウアイ島で、歳の離れた姉のナニと暮らす5歳のリロは、両親を事故で亡くした孤独な少女。友だちとうまく付き合えない、やんちゃで変わり者のリロは、ある日、保健所で珍しい“犬”を見つけ、「スティッチ」と名付けて飼うことに。しかし、実はスティッチは、違法な遺伝子操作で生物兵器として作られた凶暴なエイリアンだった…。 「逃げていかないお友だちがほしい」と心から願っていたリロにとって、スティッチはどんなに暴れん坊でも大切な存在。破壊本能だけをプログラムされていたはずのスティッチが、リロから教わった「オハナ(家族)」という言葉の概念を理解し、自分もまた家族を追い求めるようになっていく過程に胸が締めつけられる。リロとスティッチは大人気コンビとして支持を得て、これまでにシリーズ4作品が制作され、2025年夏には実写版が劇場公開予定だ。 ■ゲームの世界に暮らす似た者同士が活躍する『シュガー・ラッシュ』(12) みんなから愛されるヒーローに憧れながら、アクションゲームの悪役キャラを30年も演じ続けてきたラルフは、本当は優しい心を持つ力持ちの大男。悪役を演じることに嫌気がさし、自分のゲームの世界を飛びだした彼は、たまたま迷い込んだレースゲーム「シュガー・ラッシュ」の世界で、のけ者にされていた一人ぼっちのお転婆な女の子ヴァネロペと出会う。 定められた役割のためにヒーローになれないラルフと、たまに体がチラついてしまう欠陥プログラムのせいでレーサーになれないヴァネロペ。つらい境遇に置かれた2人が、それでも自分の夢を諦めず、ヒーローを目指そうとする展開が胸アツだ。ヴァネロペに自分の姿を重ね、初めて「誰かを守りたい」と感じるラルフを応援せずにはいられない。6年後のラルフとヴァネロペを描く続編『シュガー・ラッシュ:オンライン』(18)も公開された。 ■傷ついた天才少年とケアロボットの心の交流『ベイマックス』(14) 3歳の時に両親を亡くし、唯一の理解者は兄のタダシだった14歳の天才少年ヒロ。タダシを謎の爆発事故で失い、悲しみのあまり心を閉ざしてしまったヒロの前に、生前のタダシが人の心とカラダを守るために発明したケアロボット、ベイマックスが現れる。 天才的な頭脳を持っているけれど、まだまだ多感な思春期にいるヒロが、彼の傷ついた心を懸命に癒し、包み込もうとする優しいベイマックスのおかげで、徐々に心を開いていく。ヒロを癒すためにベイマックスがとる突拍子もない数々の行動も微笑ましい。2人の風変わりな関係性の根底には、兄タダシの消えることのない弟への深い家族愛があるのが本作のポイントだ。戦闘意欲も能力もゼロのベイマックスを相棒に、タダシの死に不審を抱いたヒロが真相に迫っていく展開もスリリングで、クライマックスは涙なしには見られない。 ■女性警察官と皮肉屋の詐欺師がタッグを組む『ズートピア』(16) 肉食動物と草食動物が共に暮らす大都会“ズートピア”を舞台に、ウサギの新米警察官ジュディと、キツネの詐欺師ニックがひょんなことから手を組んで、連続行方不明事件の解明に挑む。主人公となるバディが2人とも成人しているという設定はディズニー・アニメーション映画では珍しく、大人の心をハッとさせるメッセージ性のある物語が特徴。 周囲から草食動物らしくないと言われながらも、警察官になる夢を実現させたガッツのあるジュディに対し、幼少期に「キツネは信用できない」といじめられた経験から詐欺師になったニック。人生諦めモードで、現状に甘んじていた彼が、ジュディと出会って自分を見つめ直す姿は共感必至。また、ジュディが自分のなかにも偏見や差別があったことに気づくなど、互いに影響し合い、よりよく成長していくケミストリーがまぶしい。 ■正反対の2人が“信じることの大切さ”を伝える『ラーヤと龍の王国』(20) 龍と人が共存するかつての聖地クマンドラは、5つに割れた“龍の石”をめぐって5つの国に分裂し、対立が続いていた。龍の石の守護者である18歳の少女ラーヤは、クマンドラ再興のため、伝説の最後の龍シスーを目覚めさせることに成功。龍の石の欠片の力で、人間の女の子の姿に変身できるようになったシスーと共に、残りの龍の石の欠片を探す旅に出る。 幼い頃、心を許した友だちに裏切られて以来、人を信じることができなくなってしまったラーヤと、天真爛漫でポジティブなシスーは対照的なキャラクター。人を疑うことを知らず、いつも真正面から人を信じようとするシスーと旅を続けるうちに、ずっと一人ぼっちだったラーヤの心はじんわりと溶けていく。ラーヤが世界を救う方法は「信じ合う心」だという真理に到達する普遍的なテーマは、孤独を感じながら生きている現代人の胸に響くはず。 ■正義感あふれる少女と伝説の英雄の大航海『モアナと伝説の海』(16) 美しい南国の島モトゥヌイで生まれ育ったモアナは、海を愛し、海と特別な絆で結ばれた16歳の少女。1000年前、半神半人の英雄マウイが、命の女神テ・フィティの“心”を盗んだことで、世界が闇に覆われ始めたという伝説が事実だとわかったモアナは、マウイを探しだし、彼と共にテ・フィティの心を返しに行くことを決意する。 優しい家族と大好きな島の人たちの愛に包まれながら、すくすくと育ったモアナは、強い責任感と自由な精神をあわせ持つ主人公。一方、英雄マウイは自信満々に見えるけれど、その背景には、生まれた直後に親に捨てられたという秘めたトラウマがある。すべてを知ったモアナに励まされたマウイが、内なる葛藤を乗り越えて、彼女を助けようとするクライマックスの捨て身の献身に心を強く揺さぶられる。偉大な船乗りの子孫でありながら、ずっと海に出たことがなかったモアナが、マウイからあらゆる航海術を授けられ、ひと回りもふた回りも成長した優れた航海士になっていく様子もバディものならではの醍醐味だ。 ■モアナとマウイたちが、引き裂かれてしまった世界を再び一つにする『モアナと伝説の海2』 そして、このたび公開された待望の続編『モアナと伝説の海2』は、前作から3年後が舞台。少し大人になった19歳のモアナが、人間を憎む神によって引き裂かれてしまった世界を再び一つにするという壮大な使命を背負って、再び危険に満ちた航海へと漕ぎだしていく。 もちろん、前作の大冒険を通して、モアナと強い絆を育んだ心強い相棒マウイも登場。さらに今作では、憧れのマウイに会うことを夢見ていた語り部のモニ、天才的なカヌー職人のロト、農作物を育てることに長けた農夫のケレなど、個性豊かなキャラクターたちが仲間として加わり、スリリングな大航海の旅を彩っている。モアナとマウイの唯一無二のパワフルなバディ感はそのまま、仲間が増えたことによるチームものの楽しさも見どころだ。 性格、性別、境遇に偏見、時には種族の違いといった壁さえも軽々と飛び越えていく、バラエティに富んだディズニー・アニメーション映画の“バディもの”。一人では不可能な夢や目標も、仲間と力を合わせれば、いつかきっと実現できる。そんなメッセージを胸に、チャーミングなバディたちが活躍するスペクタクルな冒険を堪能してほしい。 文/石塚圭子