“中学受験の世界”に疑問。東京→離島へ「3年間の高校寮生活」を後押しした親の揺るぎない教育観
◆「地域みらい留学」という選択。廃校の危機を乗り越えた隠岐島前高校
東京都在住、田中美香さん(仮名)の息子の隆くん(仮名)は、島根県立隠岐島前(どうぜん)高校の2年生だ。島で寮生活を送り、自宅には長期休暇中だけ帰宅する。 【TOP50を見る】子育て世帯の「住みここち」ランキング 島根県隠岐郡海士(あま)町にある隠岐島前高校は島前地域唯一の高校で、少子化が進むなか生徒数が減り、一時期は廃校の危機にあった。このままでは地域も高校も共倒れになってしまうと、協力して双方の魅力化に努めることを宣言。地域をフィールドにした探究型の学びや高校と連携した公立塾の設置などを進め、「島留学」と称して全国から生徒を募集した。 こうした取り組みが功を奏し、生徒数はV字回復。移住者が増えるなど、地域も活気づいた。そして、特色ある教育と地域創生を両立する先進的な取り組みとして注目を集めるようになり、地域と高校の魅力化モデルは、島根県、さらに全国へと広がっていった。現在は北海道から沖縄まで100校あまりの高校が「地域みらい留学」を実施し、地域と協働で魅力ある地域と高校づくりに取り組んでいる。 地域みらい留学の魅力は、全国から集まる多様な仲間と出会い、豊かな自然の中での生活や地域の人との交流など都会ではできない体験や挑戦ができること。地域の特色を生かした「探究学習」に力を入れる学校が多く、課題解決型・プロジェクト型の学びは教育の視点でも新しいものだ。
◆中学受験をすることが本当に正解? 子どもは遊びのなかで「生きる土台」を育む
田中さんが隠岐島前高校のことを知ったのは、進路選択からさかのぼること数年、隆くんが小学4年生の頃だった。「知人から聞いて、興味をもった」と当時を振り返る。 「息子は、都内でありながら自然いっぱいの環境で外遊びが思いきりできる野外保育で育ちました。保護者たちが集まって行うその自主保育で出会った知人とは子育てや教育に関する価値観も近く、信頼していた知人が『おもしろい学校がある』と紹介してくれた学校の1つが隠岐島前高校でした。この人がおもしろいと言うんだからおもしろいはずだと、直感的に思ったんです」 田中さん一家が暮らすのは、都内でも中学受験率の高いエリア。当時、隆くんの周りの子どもたちの多くが、中学受験のために塾に通っていた。しかし、田中さんは周りと同じように中学受験をさせることが本当に正解なのだろうかと疑問を感じていたという。 「私自身、中学受験をしてそれなりに楽しい中高6年間を過ごしたのですが、小学生のときに不本意ながら塾に通って勉強した先にあった未来ってこれだったのかと。毎日ビルの一室の無機質な空間に閉じこもって勉強することの先に、何かスペシャルな未来が待っていたわけではなかったことに、ずっとモヤモヤが残っていたんです。 だからわが子には、受験とは違った進学へのアプローチは常に考えていました。思いっきり体を動かして遊んでほしい、遊びからいろんなことを学んでほしいと思って、幼少期から、本人が満足するまで遊び切らせることを大切にしてきました。子どもの学びとか集中力ってそういうところから得られるのかなと思って」 登山やキャンプをしたり、野外学校に参加したりと、自然を体感する機会も意識的に設けてきた田中さん。ときには過酷な体験もあったが、「つらいけど、あきらめない。しんどいけど、楽しい」という隆くんの姿を見てきた。 「子どもには、もって生まれた“生きる力”があると思うんです。私は、その力を大きく育むにはどうしたらいいか、ということを常に考えながら子育てをしてきました。そんな思いから参加していた同じ自主保育に通っていた子どもたちが、遊びや自然体験を通して学び、自分で考えて判断できる子に育っていく姿を見て、中学受験をしないからといって、将来不利になることはないだろうと信じていました」