同じ能力の部下が2人いたら、どこを伸ばすか…ネットフリックスの人事担当者が定義する「優秀な上司」の特徴
■それから20年後、奇跡が起きた 時は流れ、その10年後。ブロックバスター・ビデオは破産を申請した。同社はオンラインビデオへの移行という時代の流れについていけず、店舗の大半を徐々に閉鎖し、最終的に破産した。 さらに時間を10年間早送りすると、ネットフリックスはオンライン・ストリーミングサービスを提供する企業に生まれ変わり、時価総額は3000億ドルに達し、世界でも屈指の革新的な企業として称賛されていた。 ブロックバスターのCEOに一笑に付されたネットフリックスは、世界トップクラスの大企業に変貌を遂げた。 この奇跡のような出来事は、いったいどのようにして起こったのか? ■成功した「最大」かつ「シンプル」な理由 答えはいくつかある。 ヘイスティングスら同社の幹部の優れたビジョンを評価する人もいる。インターネットが普及していくのと同じタイミングでそれに合ったビジネスを展開したというタイミングの良さを指摘する声もある。だが、ネットフリックスが成功した最大の理由はもっと単純である。 それは、企業文化(カルチャー)だ。 ネットフリックスの事業が軌道に乗り始めた頃、リード・ヘイスティングスはパティ・マッコードを同社のチーフ・タレント・オフィサーに任命した。 それまで数社のIT企業で人事を担当してきたマッコードは、従来の人事管理手法には満足しておらず、従業員が自分の仕事を自分でコントロールできると感じられるような企業文化をつくりたいと考えていた。 ヘイスティングスはマッコードと協力して、自由や責任の重視など、同社の企業文化の指針となるような価値観をつくり上げた。
■「自由と責任」がもたらした大きな変化 この小さなシフトは大きな変化をもたらした。ネットフリックスの従業員の働き方は、根本的に変わった。所定の休暇や勤務時間、業績評価といった従来型の方針は取り払われ、従業員には自主性が与えられた。目標さえ達成すれば、好きなように働くことが許されるようになった。 当初、このアプローチには懐疑的な見方もあった。しかし会社が成長し、繁栄するにつれて、それが奏功しているのは明らかになった。 この企業文化は、優秀な人材を引きつけ、維持するのに役立っただけでなく、より良いアイデアを生み出すことにもつながった。 同社は市場調査やフォーカスグループといった従来の方法に頼らず、クリエイティブ・チームに新番組や新作映画の企画・制作の主導権を握らせた。その結果、世界中が注目するような斬新なテレビ番組や映画が生み出された。 マッコードは、自由と責任を重視するこのアプローチを、「パワー」というシンプルな言葉で要約した。 ■「パワー」が持つ本当の意味 これは、取り扱いが難しい言葉でもある。 「全体主義の独裁者」や「横暴な上司」「他人を支配するために密室で下される容赦のない決定」といった、ネガティブな意味合いを持つ場合があるためだ。「自分とは無縁の言葉だ」と思う人もいるかもしれない。 だが、「パワー」の意味はそれだけではない。マッコードはこの言葉を、「人に自信や権限を与える」という意味で用いていた。 つまり、自分の仕事は自分でコントロールでき、人生は自分の手の中にあり、自分の将来は自らの手で変えられるという感覚だ。コントロール感と呼び換えてもいい。この感覚は、他人を相手に行使するものではない。それは自分自身が感じるものであり、屋上に立って「私ならできる!」と叫びたくなるようなエネルギーのことだ。 本書で紹介する2番目のエネルギー源は、コントロール感(パワー)だ。それは、気分を良くし、生産性を高めるための重要な要素だ。何より、これは他人から奪うものではなく、自分自身でつくり出すものなのだ。