元寇の沈没船調査で培った「松浦方式」、未開の水中遺跡保護にノウハウ…海洋開発でニーズ高まる
鎌倉時代の蒙古襲来「元寇(げんこう)」の古戦場「鷹島海底遺跡」での長崎県松浦市の発掘調査手法が、全国的なモデルとして注目を集めている。海中を掘り起こす水中考古学には高い技術が求められるため、長年培った「松浦方式」とも言える独自のノウハウの普及と人材育成が期待されている。(北村真) 【写真】濁った海中で、ロープを伝って発掘現場まで潜る自治体職員たち
同遺跡で3隻目の元寇船が確認された10月1~10日の試掘調査では、全国各地から集まった自治体職員たちが、潜水服姿で海中に入った。熊本県天草市文化課の宮崎俊輔学芸員は、海底の土砂を吸い上げて発掘する様子を見学。「潜ってみると水中は想像以上に濁っていて視界が悪く、潮の流れによって掘る方向を変えるといった対策の大切さがわかった」と語った。
文化庁からの委託で奈良文化財研究所(奈良市)が行っている水中遺跡の調査方法を検証するパイロット事業の一環として、松浦市が実施した研修だ。北海道江差町や東京都など9自治体から12人が参加。船上と海底をカメラや電話でつないだほか、参加者の一部は水中に潜り、同市職員の案内で船体の一部や遺物を掘り出す作業などを間近で学んだ。
鷹島海底遺跡では1980年以降、継続的に発掘調査が行われてきた。海中では潮流や視界の悪さなどで危険を伴う。このため、松浦市は潜水作業を請け負う企業と協力し、海面に浮かべたブイと海底をロープでつなぎ、水上と発掘現場を安全に行き来する仕組みを開発。また、発掘時に巻き上がった泥などによる濁りを、水中スクーターによる弱い水流で取り除く独自の方法などを編み出してきた。
こうしたノウハウの積み重ねから、水中遺跡調査のモデルケースとして事業の対象に選ばれた。実地で発掘を学ぶことが多い陸上遺跡と違い、事例が少ない水中遺跡の調査現場を研修で間近に見られる機会はこれまでほとんどなかった。
同研究所水中遺跡プロジェクトチーム室の国武貞克主任研究員は「調査技術の習得には、目の前で考古学的成果が上がる瞬間を見ることが何よりも重要。今後、全国的な水中遺跡の調査研修を行う上でモデルとなる成功事例だ」と話す。