小学生になってもおねしょが治らない。夜尿症で自尊心が傷ついていく子どもたち
問題なのは、夜尿が子どものこころと親子関係に与える影響
私たち児童精神科医にとっては、夜尿症自体よりも「おねしょをしてしまうことで子どもの自尊心がどんどん傷ついていく」ことが気になります。おねしょをするたびに朝から怒られちゃう、もしくは不機嫌なお母さんの顔や寝具の片付けなどに奔走する姿を見るわけですから。 あと問題なのは親子関係の悪化です。僕のところに来る患者さんたちの中には「夜尿がきっかけで親子でもめてる」ということもあります。 しょっちゅうお布団を干したり洗ったり、寝具がおしっこ臭かったりすると、親のほうもしんどいんですね。共働きの親御さんなんて、毎日おねしょされたらブチ切れちゃいますよ。 小学校の2、3年生くらいまではまだいいんですけど、高学年になってくるとオムツのサイズもなくなります。オムツはないのに尿量が半端ないので、破壊力が増すんですね。大人用だと大きいし、まぁ中途半端で困るわけです。 思春期に入ってもおねしょをしていたら親に反抗もしづらいし、子どもの精神発達の面を考えてもだいぶ苦しい。 なので、夜尿自体は待っていれば基本的に治まるんですけど、それまでの間に親子の関係があんまり悪くなるようであれば、「じゃ、少しお薬を使ってみようか」となることはあります。 アラーム療法はじっくり取り組む必要がありますが、薬は即効性がありますから、飲むとおねしょをしなくなるんですね。それで自信がつく子も多いです。 いずれにせよ、本人の意思でどうにかできる問題ではないので、ガミガミ言っても変わりません。子どもにとってもおねしょをしてしまうことは大きなストレスですから、夜尿症を引き金に親子関係が悪くならないように気をつけて欲しいですね。
悩みのある子どもが親の目を引きたくて無意識におねしょをしてしまう場合も
またこれは別の例ですが、学校のことで悩みがあったり友達とうまくいっていなかったり、心がさみしいときに、そのストレスが夜尿という症状に現れることもあります。なかなか治らない夜尿に目を奪われがちですが、実はその背景に理由がある場合もあるんですね。「ちょっと聞いて」や「助けてほしい」をうまく言えない子によくあります。 もちろん意識的ではありませんし、本人はそんなこと認めません。でもまぁ見ていると「そういう感じだろうな」っていう子はいますよね。 親の注目を自分に集めたくて出る症状なので、例えばお母さんに外来に連れてきてもらって、ふたりきりで時間を過ごすだけですごく満足する子もいます。 そんな感じでいろいろな子がいますが、夜尿で悩んでいる子は多いです。とくに小学生のうちはたくさんいます。中学生になっても、1回くらいおねしょしちゃう子は結構いますよね。みんな絶対言わないだけで。 夜尿症は「大きくなればどんどん減っていく」ものではありますが、そうのんびり構えていられない深刻な場合や早めに治したいという場合は、受診を検討してみてください。 「おねしょをされると大変」というのは簡単に想像がつきますが、「夜尿が原因で子どもの自尊心が低下している」ということは、「言われてみて初めて気づいた」という方も多いのではないでしょうか。 また、「夜尿症で悩んでいる子どもは意外に多い」ということも印象的でした。治療方法も色々あるようなので、悩んでいる方は気軽に小児科医に相談してみるのも良いかもしれませんね。 次回は「デジタル依存と子どもたち」について宇佐美先生にお話を伺います。 【PROFILE】宇佐美 政英(うさみ・まさひで) 児童精神科医。国立国際医療研究センター国府台病院 児童精神科診療科長、子どものこころ総合診療センター長、心理指導室長。日本児童青年精神医学会認定医・代議員、日本ADHD学会理事、精神科専門医・指導医、子どものこころ専門医・指導医、厚生労働省認知行動療法研修事業認定スーパーバイザー。