「真のトップはファンが創る」WWEらしさが凝縮された“大ブーイング”の正体 【塩野潤二アナ連載#2】
昨年10月、SNSの総フォロワー数が世界で10億人を超えるアメリカが誇る世界最高峰のスポーツエンターテイメントであるWWEのメイン大会「RAW」と「SMACKDOWN」の放送が日本で開始された。さらに先月27日(日本時間28日)に行われた「ロイヤルランブル」以降は、放送席の陣容を一新。自他ともに認める“WWEフリーク”の塩野潤二アナウンサーらが加わった。そんな塩野アナが、自らの実況回ごとにWWEの魅力や楽しみ方を振り返る連載コラム。第2回目のキーワードは「真のトップはファンが創る」。
■ブーイングと『WE WANT CODY(コーディを見たい)』 この反応こそがWWE
WWEはやっぱり面白い! でも実況難しい! 面白いと難しいの狭間で立ち尽くすWWE新米アナウンサーの塩野潤二です。今回もお付き合いください。千里の道も一歩から。 さて、今週のRAW も『DIY』を『DX』と間違っていたRトゥルース氏が最高だったんですが、今回はメインストーリーのお話を。 今年も凄いのが来ました。WWE年間最大の大会『レッスルマニア』。この超大舞台で、ハリウッド俳優のドウェイン・ジョンソンことザ・ロックvs WWE統一ユニバーサル王者・ローマン・レインズというドリームマッチが浮上したのです。 ロックはセス・ロリンズ曰く『誰でも一度はロックのファンになったことがあるだろ』というほどのスポーツエンターテイメント界・不滅のスーパーヒーロー。私もロックvsストーンコールドやロックvsホーガンをアメリカやカナダに見に行ったほど彼の魅力にハマりました。そのロックが、同じアノアイファミリーで現在のWWEの象徴であるローマン・レインズと対決するとなれば話題にならないはずがありません。 この一戦が動き出したのが先週のこと。ロイヤルランブルを制しタイトル挑戦の権利を持つコーディ・ローデスが、レッスルマニアでのレインズ戦をロックに譲ります。コーディは去年のレッスルマニアでレインズに敗れており、そのリベンジとタイトル奪取は彼の悲願でした。 それを何故譲ってしまうのか。 スポーツエンターテイメントの世界は、強いものが上に立つとは限りません。スター性・ファンに感情移入させるキャラクターなど、トータルでユニバース(ファン)を楽しませるスーパースターがトップに立つのです。WWEは常にユニバースの反応を注視しているそうです。その意味でロックvsレインズは、知名度・話題性・血縁関係というストーリーと全てが揃った試合。計画の変更があったのかはわかりませんが、コーディは忸怩たる思いだったでしょう。 ところが、何とユニバースたちがSNSなどで、この一戦を拒絶し始めたのです。会場にも大量の『WE WANT CODY(コーディを見たい)』のボードが。私たちが見たいのはロックvsレインズではない。コーディvsレインズなんだと。 こういった現象はWWEでは稀にあります。 実際ロックも昔、完璧なヒーロー過ぎる余りユニバースがブーイングを起こし、悪の道に進んだことがありました。ローマン・レインズもそう。ジョン・シナもそう。彼らはそれを乗り越えスターになって行きました。真のトップはファンが創るもの。コーディはその資格を持つ男だったのです。 そんな喧騒の中、ラスベガスでレッスルマニアのキックオフイベント(会見)が行われました。日本での放送はありませんでしたが、私もSNSで固唾を飲んで見守りました。コーディとレインズ・ロック・セスロリンズら主役たちが向き合う場面。そこでコーディが態度を翻しレインズとの対戦を決断します。エキサイトしたコーディとレインズはお互いに罵り合い、ファミリーの話に発展します。すると、後ろに下がっていたロック様が前に出て来ます。 『レインズの家族を悪く言うのは、俺の家族を悪く言うのと同じだ』 そしてコーディにビンタ!! こ、これは!? 誰も想像しなかったロック様が悪者になった瞬間でした。もう世界中のSNSは大騒ぎです。 おそらく多くの人々が、ロックはレッスルマニアで大歓声を浴び、映画の世界に帰って行くんだろうと思っていたのではないでしょうか。それがブーイングを浴びるWWEの外敵になるとは、やはりスポーツエンターテイメント界一シビれる男は違います。そして、これだからWWEを見るのはやめられない。話の転がり方が凄過ぎます。 そして今週のRAWではセス・ロリンズが、レインズの軍団・ブラッドライン&ロックからコーディを『守る』とバックアップを約束する男前ぶり。かくして、コーディ&ロリンズvsロック&レインズという構図が出来上がり『一族の長を決める戦い』から『WWE vsアノアイファミリーのドラマ』へと発展したのです。 WWEは映画に近いと思います。コーディの物語・ロックの歴史が重なり、どんでん返しもあるしバッドエンドもある。一方でCGなどを使わない生身での戦いや、大観衆の作る一体感は映画にはないものです。 ストーリーは2月24日のビッグマッチ『イリミネーション・チェンバー』を経て、4月のレッスルマニアへと向かって行きます。イリミネーション・チェンバーとは、悪魔の要塞に6人が放り込まれ最後の一人になるまで戦う何でもありの試合。まるでアクション映画のワンシーンのような形式です。 そしてレッスルマニアは一年のクライマックス。最高に盛り上がった状態で到達します。物語の結末を是非ご覧ください! それにしても…遠いところへ行ってしまった俺たちのザ・ロックが、またWWEのリングに立つ日が来るなんて。WWEの世界はNever say never. 文/塩野潤二 Ⓒ2024 WWE, Inc. All Rights Reserved.