北ミサイルはどこまで脅威なのか(上)日本の迎撃能力を超える量と技術も
■日本にとって脅威となるのは?
こうして見てみると、日本に脅威となるミサイルは、一部のものだけだと分かります。 以下、もう少し詳しく見てみます。
(a)ノドン
ノドンミサイルに関して注目されるのは、「移動式発射機」で運用されているという点です。普段は、山をくり抜いた基地などに隠されており、発射するときだけ、外に出て発射します。 移動式発射機が停止してから、ミサイルを発射するまでに要する時間は極めて短く、いわゆる「策源地攻撃」(発射されたミサイルや飛来する航空機を迎撃するのではなく、それらを運用する根拠地、ミサイル基地や発射機、そして飛行場などを攻撃すること)によって、ミサイルの発射を阻止することが困難です。 そして、もう一つ注目すべきなのは、その数です。 一部は、サイロと呼ばれる地中の縦穴に入れられた固定式の発射機が使われますが、多くは移動式の発射機で運用されます。これら発射機が、約50基あると見られています。 9月5日の弾道ミサイル発射では、3発がほぼ同時に発射され、ほぼ同時に着弾したとみられています。つまり、50機の発射機があるため、50発の同時発射・同時着弾が可能ということです。ただし、実験の状況を見ると、正常に飛翔しないミサイルが、かなりありそうです。 この大量のミサイルの同時発射は、戦術手法としては、「飽和攻撃」と呼ばれるものです。北朝鮮は、敵の防御手段、この場合、日本の弾道ミサイル防衛網の持つ能力を上回る、大量のノドンミサイルを同時に撃つ戦術が可能なのです。それによって、発射したノドンミサイルの多くが、撃ち落とされますが、一部は、目標に着弾させることができることになります。 当然ですが、防衛省は、何発以上になると、ミサイル防衛網が飽和するのかは公開していません。ですが、50発のミサイルによる同時攻撃は、相当なものであることは間違いありません。そして、もし1発だけがミサイル防衛網をくぐり抜けたとしても、それが核ミサイルだったのならば……。 さらに、実は飽和攻撃よりも、もっと明確に危険であると言える事実があります。 それは、ノドンミサイルの総量です。北朝鮮は、300発を超えるノドンミサイルを保有していると見られています。50発の発射機からミサイルを発射後、再度ミサイルを搭載することで、また50発のミサイルが発射できます。再装填の時間は、明らかではありませんが、長くかかったとしても数時間で再装填できるはずです。 それに対して、日本の弾道ミサイル防衛の主力であるイージス艦は、現時点ではこんごう型護衛艦4隻のみです。そしてこのイージス艦による弾道ミサイル防衛は、1隻で日本全域をカバーすることは、現時点では無理です。つまり、整備中の1隻が常にあることを考慮すると、海自がどれだけ努力しても、2隻+1隻での運用になります。そして、こんごう型護衛艦は、迎撃ミサイルのSM-3を最大限搭載しても、96発しか搭載できません。 北朝鮮が、イージス艦が1隻しか防衛できていない地点に対して、ミサイルを集中的に運用すると、SM-3ミサイルが百発百中だったとしても、96発のノドンミサイルしか迎撃できないのです。イージス艦2隻でカバーできる地点に対して、弾道ミサイルが発射されたとしても、最大限迎撃出来る数は192発です。ノドンミサイルの総量よりも、明らかに不足します。しかも、イージス艦がSM-3ミサイルを格納、発射するVLSと呼ばれる発射機は、イージス艦を航空機による攻撃から防衛するためのSM-2ミサイルや対潜水艦用のASROCミサイルも格納するため、基本的に全弾SM-3を搭載することはありません。そして、言うまでもないことですが、撃墜確率が100%ということもあり得ません。 さらに、現時点では不確実情報ですが、9月5日に行われた発射では、1発のノドンミサイルから、複数の弾頭を切り離し、別々の目標に落下させる「MIRV(ミーブ=弾道ミサイルの多弾頭化)」という技術を実証してみせたとの情報があります。切り離しは、ロケットモーターの燃焼が終わり、大気圏外にでると順次行われるため、通常SM-3ミサイルによる迎撃よりも先になります。つまり、迎撃するべき目標の数が、ミサイルの総量以上に増えるのです。 また、ミサイル防衛網は、イージス艦の海上配備型迎撃ミサイル「SM-3」だけではなく、地対空誘導弾パトリオット「PAC-3」ミサイルも、これを構成しています。しかし、パトリオットPAC-3の防護範囲は狭いため、パトリオットが展開していない場所にミサイルを撃たれた場合は、そもそも迎撃出来ません。 つまり、北朝鮮のノドンによる量的攻撃力は、自衛隊による弾道ミサイル防衛を、量的に凌駕してしまっているのです。