トイレで衝動的に裸になったひきこもり48歳女性「人でいたくなくなった…」泣いて謝るだけの母と取り合わない父の手で精神科病院に連行…それでも消えなかった家族への罪悪感
先輩社員に嫌味を言われ傷つく
大学に入ってからは友だちや彼氏の家に泊まって、なるべく家にいる時間を減らした。母から逃れることしか思いつかなかったからだ。 大学卒業後はアパレルの販売店に就職した。新規オープンする店舗に配属され、開店の準備にあたったが、2か月ほどで仕事に行けなくなってしまう――。 まだガランとした店内に商品が届き、「整理をして」と命じられても、新人の野中さんにはどうしたらいいのかよくわからない。正直に「わかりません」と言ったら、女性の先輩社員にバカにされた。 「えー、そんなこともできないの」 野中さんが男性社員に可愛がられるのも、先輩女性は気に食わなかったようで嫌味は続く。野中さんはどんどん疲弊していった。 「もともと人の気持ちには敏感だったので、毎朝、『あ、嫌われているな』って感じるのが、ちょっとしんどくて。それに、新しい環境に慣れるのが大変で、感覚が過敏になっていって、ちょっとしたことで涙が止まらなくなったりしました。 でも、嫌な気分を晴らしたくて、仕事が終わってから以前のバイト先の友だちと飲みに行って、翌朝、エナジードリンクを飲んで、何とか仕事に行く。そんなことを続けていたら、精神的に不安定になってしまって……」 あるとき、「親にずっと言えなかったモヤモヤした気持ちを伝えたほうがいい」と友人たちに勧められ、皆に見守られて両親と話をした。ところが、母親は泣いて謝るばかり。仕事が忙しくて、ふだん家にいない父親は「何を言ってるのかわからない」と話が通じない。 野中さんは衝動的にビルから飛び降りたくなったが、ビルの中で窓は開かない。トイレの個室に飛び込むと、なぜか着ている服を脱いだのだという。 「自分でもよくわからないけど、人でいたくなくなったというか、消えてなくなりたかったのかな……」
罪悪感を抱えて家にひきこもる
家に戻ると、野中さんは荷物の仕分けを始めた。自室にある家具の多くは「これがいい」と母親が選んだもの。好きではないのに母には言えず、居心地が悪いまま暮らしていたが、自分が本当は何が好きなのか知りたくなったのだ。 「ドライブに行かない?」 ある日、遊びに来た親戚に誘われて車に乗り、連れて行かれたのは精神科病院だった。 「私は病気ではないから」 懸命に訴えたが聞いてもらえず、注射を打たれて意識を失ってしまう。気が付いたときは手足を拘束され、オムツを穿かされてベッドに横になっていた。何より辛かったのは、自分のことが自分でもわからなくなっていることだった。 自律神経失調症と診断され、3か月間入院。退院後は自宅療養をした。半年間、ほとんど家から出ずにひきこもっていたのだが、「心配をかけて申し訳ない」という罪悪感にずっと苛まれていたそうだ。 過食嘔吐をくり返した高校時代も、常に罪悪感があったと話していたが、どうしてなのか。疑問に思って聞くと、自分の気質について説明してくれた。 野中さんは40代半ばのころ、自分がHSP(Highly Sensitive Person)だと気が付いたそうだ。病気や障がいではなく生まれつきの気質で、一般的には「繊細さん」という呼び方もされている。感受性がとても強く、細かなことまでよく気が付く。ていねいな仕事ぶりが評価されることも多い。その反面、些細なことで自分を責めて罪悪感を持ちやすく、生きづらさを感じる人も多いという。 「普通の人なら、『こんなの嫌だ、絶対無理』と言ってその場で終わりにすることでも、私がそれを嫌だと言ったらお母さんがすごいショックを受けて傷つくと考えてしまい、何年も言えなかったりする。完璧主義のところもあって、うまくいかないことがあると、できない自分が悪いんだと罪悪感を持ってしまうんだと思います」 職場に復帰したのは半年後だった。人数の多い別の店舗に配属してもらい、教育係についた先輩が何かとフォローしてくれて、仕事を続けることができた。