刀や妖術…〝誇張された日本〟をかっこよく描く漫画が快進撃 『カグラバチ』外薗健さん「誰も見たことない絵を」
『カグラバチ』は、週刊少年ジャンプの中でも珍しい復讐の物語でもある。「ジャンプの連載であんまりないなと思ったんで、そこに挑戦してみようと思いました」。だが「敵に復讐する気持ちよさだけのエンターテインメントにするのではなく、ずらす。王道からずれた物語展開にしています」 そんなときに思い浮かべるのは、『ジャンゴ 繋(つな)がれざる者』などのクエンティン・タランティーノ監督や、『セブン』のデヴィッド・フィンチャー監督だという。生々しい暴力表現や毒のあるユーモアなどで人間の奥底を照らし出す、両監督の映画に共感するものがあるようだ。 ▽今までにない漫画に 本作のチヒロはテンションが低く、日本の少年漫画の主人公としては異色な、ダークな人物設定だ。無口であるが故にせりふが際立ち、印象深くなっているのだ。 「このキャラクター像がうまくいったら、今までにない漫画にできるかも…と思っています。ジャンプには『ONE PIECE』とかレジェンド漫画がいっぱいある。漫画家になるまではそのまねごとでした。今度は僕が新しいものを提示できるよう頑張りたい」
外薗さんは2000年に大阪府で生まれた。負けず嫌いで、父や兄より上手に恐竜を描きたかった。何度も描くうち、どうすればうまく見えるかが、自然と分かるようになった。好きだった漫画は、岸本斉史さん作の『NARUTO―ナルト―』。外薗さんは物語に合わせ「オリジナルキャラ」を考えて描いたという。 「画面の白黒のパキッとした感じとか、挑戦的な構図とか、『NARUTO』から影響を受けていると思います」 ▽コロナ禍でよみがえった漫画家の夢 大学生だった2020年に新型コロナウイルス禍が始まり、リモート授業すらままならない状況に見舞われた。やることがなく「なんとなく漫画家になりたかった」ことを思い出した。初めて漫画を完成させてその年の手塚賞(集英社主催)に投稿した。 これがすぐさま準入選した。『スラムダンク』の作者で、審査員を務めた井上雄彦さんは「漫画を描く楽しさが伝わってきた。将来に期待」と高く評価した。外薗さんは、その後『ロクの冥約』などいくつかの読み切り作品を経て『カグラバチ』の連載を始めた。
外薗さんの作品は、登場人物が受けた恩に報いようとするシーンが印象的だ。『カグラバチ』では、育ててくれた父親への恩義が主人公が闘う大きな理由となっている。その姿は外薗さん自身に重なる部分もあるようだ。 「僕は漫画を描くために大学をやめた。それを快く承諾してくれた親のために、漫画で絶対成功しないといけないと思っています」 外薗さんの右手の薬指には、痛々しくも見える、巨大なペンだこがあった。「ペンの持ち方が変で、力み過ぎちゃって負担がでかくなるんですよ」と笑った。 作品のイメージカラーの黒。描き込まれた絵の裏側に、漫画家としての気概が込められている。