「安全、安心、信頼できるAI」との共存を目指す議論進む G7、活用と規制の国際指針で合意
急がれる悪用と被害防止対策
AIの悪用の中でも現在最も懸念されているのが「ディープフェイク」と呼ばれる偽動画だ。ディープフェイクの危険性は数年前から問題視されていたが、生成AIの普及に合わせて2022年から世界各国で偽動画の拡散が急激に増えて国際社会の関心や懸念も強まっている。
一例を挙げると、ロシアのウクライナ侵攻後に同国のゼレンスキー大統領が自軍に降伏を呼びかける偽動画が広がった。比較的最近の例ではパレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘でも偽とみられる動画が拡散していると伝えられた。2024年の米大統領選に関連した偽動画が既に使われ始めている。
日本でも11月初めに岸田首相の声や映像を使い、性的な発言をしたように見せかけた偽動画がSNSで拡散していたことが明らかになった。政府は関係省庁が連携して対策を進める方針を決め、AI戦略会議などで検討を続けている。
生成AI技術を使っている偽動画を偽と見抜くのは容易でない。だが、高度な技術にはより高度な技術で対抗するしかない。対策の柱になるのは技術開発だ。
東京大学大学院情報理工学研究科のグループが4月に「ディープフェイクを世界最高水準で検出する手法を開発した」と発表し、国内外で注目された。わずかな偽造の痕跡も見逃さないという。現在マイクロソフトなど多くの世界的AI大手も検出ソフトの開発を急いでいる。
G7が合意した国際指針でも偽動画を含む偽情報の拡散などの問題に対する対策を進めることが盛り込まれたが、効果的、具体的な防止策は今後の課題だ。生成AIの悪用は世界的な課題で一国だけでは解決できない。各国が研究開発の技術や情報を可能な限り交換する必要があり、国際連携が大切だ。世界の英知を結集してAIの悪用と被害を防ぐ具体策を見つけなければならない。
生成AIの登場により、多くの人がAIにまつわるさまざまな問題を考えるようになった。AIの賢い利用、AIとの賢い共存共栄のあり方を生成AIに問うわけにはいかない。人間が考えなければならない。生成AIに熱狂した2023年はもうすぐ終わる。2024年は国際指針を基に人間とAIの共存のあり方を冷静に考え、人間の知恵を生かした賢い使い方をしっかり考える年になる。 (内城喜貴/科学ジャーナリスト、共同通信客員論説委員)