9万円ディナーを数時間で売り切る世界1シェフが「欧州からペルー」に戻った理由
「世界一」になるために必要なこと
このイベントの準備に向かう前に、マルティネスは「Forbes India」のインタビューに応じ、なぜ歴史ある文化に着目するのか、持続可能な食の未来について、そして世界最高峰であることが自分にとって何を意味するのか(あるいは意味しないのか)について語ってくれた。以下、一部抜粋で紹介する。 ――あなたのレストラン「セントラル」は2023年、世界一のレストランに選ばれました。 世界一になるためには何が必要でしょうか。 マルティネス:「世界一」に固執するならば、まちがっています。 料理人が念頭に置くべきなのは、世界一ではなく、もてなしの心と共に料理を作り、サービスを提供し、なおかつ料理、食材、そしてその背景文化を理解することです。もちろん才能も必要なので、毎日研磨することは当然です。 日々鍛錬し、昨日よりも良いパフォーマンスを目指さなければなりません。 ――「セントラル」開店時の目標は何でしたか? マルティネス:私がしたかったのはただ、人々のために料理を作り、自分の技術を駆使し、自分の解釈で食材を調理することでした。キッチンで、料理や人生に対して、楽しみつつも慎重に向き合いました。それは普通のことで、過程でしかないのです。何度も失敗し、そこからまた学ぼうと前に進むことが大事です。 例えば、磐石なチームが必要だと気づく――、サービスやおもてなしの心についてもっと考えねばならないと気づく――。 シェフであることや、厨房での完璧さを求めることに執着するだけではまだ十分ではない。レストランには自分だけのメッセージ、そして、自分だけの物語を創ることが必要なのです。そのメッセージが見つかった時こそ、レストランは変革的な場所になり得るのです。 ――「セントラル」のメニューには、ペルーのさまざまな高原に見られる14の生態系を表現した14のコースがあります。 どのようにメニューをまとめたのですか? マルティネス:標高の異なる生態系を表現したいと思い、このようなメニューにしています。 ペルーは世界生物多様性ランキングのトップ5に入っている国ですから。 ですが、ペルーにとどまらず、南米全体の生態系を扱っています。だからこそ様々な場所を訪れ、そこでどのような生活が営まれているのか、どんな食材が用いられているのかを調べることを大切にしています。ペルーには約55もの民族が生活しているので、われわれは多様なメニューを考案し、「ペルー」を表現しながらグローバルな体験を提供することができると思います。 メニューでは、海、山、そしてアマゾンの熱帯林までを表現しています。「旅」の始まりは海面下10メートルの世界、黒い岩々をイメージした料理です。 海藻や藻類、マテガイやホタテなどの海の幸を味わっていただきます。 実際にペルーの高地に行くと、野菜の根やジャガイモ、キヌア、トウモロコシなどが収穫できます。自然界で同じ生息域にあるものを皿の上に一緒に並べるというアイデアなんです。 ――採集旅行で出会ったユニークな食材を教えてください。 マルティネス:アマゾンのフアンポという木の樹皮から採れる「のり」は独特でした。アマゾン料理でとろみを出したい時に使用しています。 現代の調味料は工業化されてできたブランドばかりです。しかし、 フアンポを使うことで、自力でもとろみ剤が作れることが証明できました。ある意味、日常的にキッチンで目にする、何が入っているのかわからない魔法の粉や増粘剤は必要ないのかもしれません。