「パーパスにクレド…もうお腹いっぱい!」カタカナ語に振り回される会社と改革につなげる会社の“決定的な差”
● パーパスにミッション、バリューにクレド…… もう「カタカナ語」でお腹いっぱい! リスクマネジメントの仕事をしていると、企業から行動規範(code of conduct)の作成を頼まれることがある。あるとき、その企業の幹部社員にインタビューを行ったところ、以下のような反応があった。 「うちの会社は、はやりものが好き。それは悪くはないのだけれども、会社の中にはすでにパーパスやらミッションやらバリューやらクレドやら……カタカナの標語だらけで、どれも全く定着していない。そこに加えて、コードオブコンダクトですか? もうお腹いっぱいで入りませんわ……」 調べてみると、確かにその企業はこういったキーワードの氾濫状態にあって、これ以上新しいものを作っても成果は見込めなさそうだと考え、プロジェクトを方向転換することにした。 もともと、日本企業には、企業理念があり、社訓があった。十分に機能していたと私は思うが、近年は似たようなカタカナ語が氾濫しており、混乱をきたしているように思う。もちろん、一つ一つの言葉には重要な意味があり、それを否定するものではない。しかしながら、それらを導入している側の思いほどには、現場には届いていないのである。
● 企業理念とパーパスは どう違うのか 例えば、「企業理念(Corporate Philosophy)とパーパス(Purpose)がどう違うのか説明して」と尋ねて、一体何%の人が回答できるだろうか。 企業理念は、企業の根底にある信念や価値観を示す。これは、企業がどのような基準や原則に基づいて運営されるかを定義し、従業員やステークホルダーに対する企業の姿勢や行動の指針を提供する。理念は企業の文化やアイデンティティーの核となり、長期にわたって安定したガイドラインを提供する。 一方、パーパスは企業が存在する理由、つまり「なぜ」その企業があるのかを説明する。これは、企業が社会や顧客に対してどのような価値を提供しようとしているかに焦点を当てる。パーパスは企業が直面する特定の問題を解決するためにどのように行動するか、または社会全体にどのような貢献をするかを明確にし、従業員や顧客にインスピレーションを与える役割がある。 よって、何が違うかというと、企業理念が「どうあるべきか」という企業の内面的な価値観に重点を置く一方で、パーパスは「何を成し遂げたいか」という、より具体的で対外的な目標に焦点を置く点が違うということになる。 企業理念は企業内部に影響を与えることが多く、企業文化や行動規範を形成する。一方、パーパスは外部にも広がり、顧客や社会に対する企業の役割と責任を示す。両者は企業が持続可能で意義ある成果を出すために共に重要であり、補完関係にある。 上記が一般的な回答である。企業の啓蒙活動の成否にもよるが、この2つのキーワードの違いについて答えられる人は1割もいないのではないか。組織文化の専門家でもなければ、この抽象度の高さと微細な違いを、頭ではともかく肌感覚として理解するのは難しい。 上記の説明にしたところで、専門家なら“ここはこのように間違っている”と指摘したくなるに違いない。いずれにしても、かなり厄介なコンセプトなのである。