落語家・林家つる子 女性初の抜てき真打が挑戦する“女性目線で描く古典落語”とは
■夫婦の形は「理屈じゃない」
今月17日に鈴座 Lisa cafeで二ツ目として最後の独演会『ツルノヒトコエ vol.3 二ツ目最後の独演会』を開催したつる子さん。そこで、最後のネタに選んだのは古典落語を女性目線で描いたつる子さんオリジナルの『子別れ』でした。 古典落語『子別れ』は、主人公で大工の熊五郎が、家に帰らずに三日間も遊郭で遊び、家に帰ると妻のお徳と大げんかに。お徳は愛想をつかし、息子の亀を連れて出て行ってしまいます。それから3年後、遊びもやめ真面目に働く熊五郎は偶然、息子の亀と再会。最後は亀が熊五郎とお徳を引き合わせ、熊五郎からまた元に戻りたいと告げられたお徳が“ありがとう”と熊五郎と一緒になれることを喜び、ハッピーエンドで終わる人情ばなしです。 ――本来の古典落語の『子別れ』と、つる子さんが女性目線で描いた『子別れ』。どのような違いがあるのでしょうか。 本来、大工の熊五郎が更生して、お仕事を頼まれた番頭さんと一緒に木場へ行くシーンから始まって、(息子の)亀ちゃんと再会してお小遣いだよって50銭あげて、おっかさんの家に戻るっていうのが必ずあるんですけど、そこをごっそりなくして、裏側でおかみさんが亀ちゃんとどういう生活を送っていたのかなというところを描きたかった。 『芝浜』を女性目線で描くという挑戦をする時に、いろんなご夫婦に夫婦間のお話を聞いたんですね。そのときに“なんか一緒にいるんだよね”って。すごくささいなことが夫婦をつなげる支えになっている気がして。別れて一緒にならないということでもそれはそれでいいと思う。ただ、子別れの夫婦の場合は一緒になるっていう結末は崩したくなかったので、許せないことがあるけど、この人と一緒にいたいとおかみさんが思っていたということを出せたらいいなと。ちょっとだめな男の面倒を見るのが好き。これも現代によくあるんじゃないかなと、“なんでこの人はこの人と一緒にいるの?”って、これは理屈じゃないと思うんですよね。 もちろん腕のいい大工さんで、過去に好きで一緒になった二人だと思うので、前のその人に戻っているんだったらある程度、情も戻ってくるでしょうし、まして亀ちゃんっていう存在もいますし。でもそこで、やっぱり(復縁を切り出されてお徳が)“ありがとう”って言うのが、そうじゃないような気がしたので。結局復縁を切り出されて、“許さない”っていうのはちゃんと口に出して言っておきたかったんですね。許さないけど、どうしようもない気持ちでまた前に進んで行く。理屈で片付けなくていいというか、感情のままいけばいいんだよっていうのを、現代の人にも共感できるかなと思ったんですよね。恋愛とかは特にそうかなと思うんですけど。失敗もまたするかもしれないけどそれはそれでいいし、そういう部分をおかみさんのセリフを足すことで伝えられたらいいなと思いました。
――最後に真打昇進披露興行への意気込みを教えてください。 客席で見ていた寄席でトリを取る日がくるのかと思うと本当に感慨深い思いでいっぱいなんですけど、お祭りのようににぎやかな興行になるので、初めて行くけど大丈夫なのかなって人も大丈夫なので、真打披露興行は特に豪華な師匠方がお出になりますし、新真打の挨拶披露口上というのもありますので、積極的にお越しいただけたらうれしいなと思います。