【解説】ハード面の整備はほぼ完了もソフト面に課題 要支援者の避難計画作成が進まず〈西日本豪雨から6年〉
KSB瀬戸内海放送
2018年7月の西日本豪雨の後、岡山県の各地でハード面の整備が進められ、これまでにほとんどが完了しました。一方で、ソフト面での対策には課題があります。1人で避難するのが難しい「要支援者」の現状について解説します。 倉敷市真備地区の死者数>>>>>>
西日本豪雨ではこれまでに災害関連死を含めて岡山県で95人が亡くなりました。 倉敷市真備地区では小田川や支流の堤防が決壊するなどして約1200haが浸水。約4600軒の住宅が全壊しました。岡山市東区では1級河川の砂川の堤防が決壊し、2200軒余りの住宅が浸水しました。 2024年3月、西日本豪雨で決壊した倉敷市真備地区の小田川と高梁川の合流点を付け替える工事が完了しました。 この工事は、柳井原貯水池を小田川のバイパスとして利用し高梁川への合流点を元の位置から約4.6km下流に移すもので、事業費は約474億円です。 倉敷市によりますと、これにより大雨が降ったときの小田川の水位が以前より大幅に低くなるということです。 (倉敷市/伊東香織 市長) 「多くの皆さまに感謝申し上げたい。これが大きくこれからの防災環境を変えていくと思いますし、倉敷市真備地区での環境は防災の体力的に強いものになったと思う」 国土交通省岡山河川事務所が公開している2020年の「洪水浸水想定区域図」です。 150年に1度と言われる雨量、2日間で248mmが降った場合の浸水エリアを示していて、倉敷市真備地区や総社市の一部など合わせて103平方キロメートルが浸水する想定です。 そして、6月14日に公開された最新の想定です。 合流点の付け替え工事や堤防の強化により浸水面積は約3割減少し、合わせて69平方キロメートルになっています。 また、浸水の深さにも変化が見られました。色が濃いほど深い想定です。 倉敷市真備地区では家屋の2階が水没する「5~10m未満」とされていたエリアの多くの部分が1階の床上浸水に相当する「0.5m以上3m未満」に改善しました。 岡山市の砂川では西日本豪雨で決壊した地点の下流側、約7.2kmの区間で改良復旧工事が進んでいます。岡山県によると事業費は約185億円で、工事の進捗率は6月末時点で約9割です。 2025年3月に工事が完了すると、西日本豪雨と同じ規模の雨が降っても決壊が起きないということです。砂川の工事が終わると西日本豪雨を受けて岡山県で行われた河川の改修工事が全て終わることになります。 ■ソフト面の課題…要支援者の個別避難計画は しかし、ソフト面の対策には課題があります。その一つが、1人で避難するのが難しい「要支援者」の避難方法や相談先などを事前に決めておく「個別避難計画」の作成です。 岡山県によりますと、倉敷市真備地区で亡くなったのは関連死を除いて51人。このうちの約8割にあたる42人が要支援者でした。 国は2021年に法律を改正し「個別避難計画」の作成を市町村の努力義務としました。 岡山県では2024年4月1日時点で約4万6000人が要支援者として登録されていますが、「個別避難計画」が作成されたのは約6000人にとどまっています。なぜ作成が進まないのか。そして、どう進めていけばいいのでしょうか。 西日本豪雨で被災した倉敷市真備町箭田の中本昭彦さん(77)は、当時、妻のきぬよさんと2人で暮らしていました。きぬよさんは寝たきりで要支援者でした。 (被災当時寝たきりの妻を介護/中本昭彦さん) 「被災した時は逃げる気もない正直寝たきりの人をどこへ連れていく? 今考えてみたらあのままおったら俺は助かるかも知れんけど、うちの(妻)は水につかって亡くなったかも」 家にとどまっていた中本さんですが、7月7日の未明、孫から避難を促す電話があり逃げることを決めました。そして、きぬよさんとともに車で高台に移動し、2人とも無事でした。 中本さんは、西日本豪雨が起きるまで避難経路や相談先などについて考えたことがなかったと話します。 (被災当時寝たきりの妻を介護/中本昭彦さん) 「1人では何もできない正直、在宅介護者は特にみんなの助けがいる。これ(個別避難計画)を作っておけば地震は別にしてもみんなで助けあえる」 倉敷市によりますと、倉敷市では2024年4月1日時点で約3000人が要支援者として登録されています。 しかし、個別避難計画を作成したのはわずか33人。作成が進まない理由について、倉敷市は、計画に必要な「支援してくれる人」を見つけることが難しいのが原因の一つとみています。 地域のつながりが弱くなっているほか、責任を重荷に感じる人が多いということです。 (倉敷市/伊東香織 市長) 「まだなかなか進んでいないところだが、しっかり取り組みを進めていけるように関係部局と頑張っていきたい」 福祉防災学に詳しい同志社大学の立木茂雄教授は、自治体が住民側と協力して要支援者がどんな支援を必要としているか地域で広く共有することから始めるべきだと話します。 (同志社大学/立木茂雄 教授) 「地域の方々はこんなハイリスクな方々が近所にお住まいだったんだと、具体のケースから入っていかないと支援をしようという方を募るのは難しい」 さらに、浸水想定区域に住む人など要支援者の中でもリスクが高い人から作成を進めるべきと話します。 (同志社大学/立木茂雄 教授) 「本当にハイリスクな方については行政が主役で身を乗り出して、さらに福祉の専門職の人も計画づくりに仕事として関わっていただき、その上で地域の方々のいざというときの支援を仰ぐ、本気でやってくださいというのが令和の取り組み」
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