1ドル161円台に。水準訂正に晒される円安は「危険水域」に【播摩卓士の経済コラム】
金利が為替相場を決める1つの要素であることは間違いありませんが、それがすべてではありません。 そもそも金利差にだけ着目すれば、この30年間、日本の金利はアメリカに比べてずっと低かったのですから、30年間、ずっと円安が進んでいないと説明がつきません。 金利差に着目し過ぎることは、今起きていることの本質をむしろ見えにくくしてしまうのではないでしょうか。 ■今起きていることは円の水準訂正だ 今起きていることは、円相場の水準訂正、言い換えれば、円のバリューが再評価されているということではないでしょうか。 環境が変化した際に、マーケットメカニズムが機能して正しい価値を決定するには、一定のタイムラグ生じることがままあります。 長年の市場の既成概念(パーセプション)が根強ければなおさら、そのラグは大きくなります。 円は安全通貨で、日本は黒字国、国際競争力もあって、国民は自国通貨志向が強い(ホームバイアス)といった長年の「常識」や「通説」がついに修正され、円の価値が水準訂正に晒されている過程にあるように思えます。 ■円の構造変化の要素はいくつも 長らく「安全資産」と言われた円も、最近は、変動幅が大きくなっていることに加え、米中対立が深刻化する中で、有事が意識される台湾海峡に近いと言う地政学的なリスクが意識されるようになっています。 貿易黒字はもはや過去のもので、ウクライナ危機でエネルギー価格が高騰すれば赤字額が急増するという脆弱性も露呈しました。 海外生産の進展や国際競争力のそのものの低下で、円安になっても輸出はかつてほど増えません。 その一方で、ITサービスを利用するごとにGAFAMに支払うデジタル赤字も急増しています。 海外で稼いだ外貨は、人口減少で投資機会の少ない本国である日本にはなかなか還流せず、円買い需要が生まれません。 これまでゼロ金利に甘んじた円預金までもが、将来に備える若い世代の台頭に、新NISAも加わって、リスク資産、とりわけ「外貨建て金融商品」に流れ始めるなど、円安に振れる構造変化をあげれば、きりがありません。