「もう続けるしかない!」大規模アイスショーの舞台裏、フィギュアブームの追い風と羽生結弦の存在感
羽生さんは、オープニングなどで中心的な役割を果たし、大トリの演技を終えれば会場は総立ち。さらに、終演後はリンクから退出する出演者を労う側に回る。 出演者の1人というよりは、ショーの成否を自ら担おうとするかに見えるが、「実質座長」はCICからの依頼によるものなのだろうか。尋ねてみると真壁社長は「それは曖昧です」と言う。「座長をお願いします、と話をしているわけではない。ただ、彼はずっと、そういう意識で出演してくれていると思います。私も、彼が先頭に立って、みんなを引っ張っていってくれると期待している。なんといっても五輪2連覇のトップスケーターですから」。
「ファンタジー・オン・アイス」の歴史は、羽生さんと制作側との切磋琢磨の歴史だったともいえる。「彼が出演するショーなのだから、当然、クオリティーの高い、ナンバーワンのショーにしなきゃいけない。私たちも負けられない、と思ってやってきました」。 羽生さんは、「アイスショーではジャンプを含め演技の各要素を失敗しにくい難易度に抑える」という従来のあり方を率先して変え、プロ転向後もオープニングから4回転ジャンプを跳んでいる。すべての演目が終了した後に行われる「ジャンプ大会」でも高難度ジャンプに挑む。そうした積極的な姿勢はほかの出演者にも伝播し、とくに若い選手にとって刺激になってきただろう。
ショーの大きな売りであるアーティストとのコラボ演目でも、羽生さんは曲を深く研究し、皆を驚かせるような演技を用意してくるという。 「彼と同じ時代にフィギュアスケートの世界に身を置き、その進化を間近に見られたのは本当に幸運なことでした。ショーでも全力を尽くしてくれるから、私たちも演技を見るのが毎年楽しみです。“羽生結弦出演ショー”だからチケットを買う、というお客さんが多いのもわかっています。でも、1つ肝に銘じているのは、彼の人気にただ乗っかろうとするのは違う、ということです。私たちは私たちで、より良いショーをつくるために努力をする。そうしていかなければ、未来はないんです」(真壁社長)