米、比に中距離ミサイル発射装置を初配備 演習契機に 中国反発
(CNN) 米陸軍は25日までに、フィリピンとの合同軍事演習を契機に地上配備型の中距離ミサイル発射装置(MRC)を同国へ送ったと発表した。 「タイフォン」としても知られる同発射装置がインド太平洋地域に配備されたのは初めて。射程が最長1600キロまでのミサイル発射が可能としている。軍事専門家によると、領有権論争が長引く南シナ海の中国の拠点、中国大陸の南部地域や台湾海峡に沿った地域が射程圏内に収まる。 フィリピンと中国との間では南シナ海スプラトリー(南沙)諸島の主権論争が最近激化し、中国は比補給船に放水銃を浴びせるなどの威圧行動にも出ている。 中国はフィリピンへの今回のMRC配備に反発し、米国は軍事的な対決を煽(あお)っていると批判。同国外務省報道官は定例会見で、米国が他国の安全保障上の懸念を真剣に考慮することを促した。 米陸軍は今回のMRC配備を今月11日に始まったフィリピンとの合同軍事演習に合わせたものと説明。配備の期間には触れなかった。米比両国は一連の合同軍事演習を予定しており、最初の演習は今月8日に始まっていた。22日にはこれまでで最大規模とする定例の演習「バリカタン」が開始された。 MRCには迎撃弾道ミサイル「SM6」や巡航ミサイル「トマホーク」を搭載できる。米戦略国際問題研究所(CSIS)のミサイル防衛事業担当部門によると、SM6は370キロ範囲内に位置する船舶を狙える。トマホークの射程は1600キロとなっている。 軍事専門家たちは、今回のタイフォン配備を中国がミサイル戦力で長らく優位な立場にあった地域情勢を是正しようとする米国の最初の意思表示とも形容した。 シンガポールの南洋理工大学ラジャラトナム国際学研究所(RSIS)のコー研究員は、中国のミサイル戦力が比北部、日本や台湾が含まれる「第1列島線」で米軍に脅威を及ぼしてきたこれまでの状況を「均衡化」する方途とも位置づけた。さらに東方へ延びて米領グアム島を見据える「第2列島線」の防空機能の改善もにらんでいるとした。この二つの列島線は、中国が独自に設けた軍事的な防衛線となっている。 米陸軍の専門誌「ミリタリー・レビュー」は2021年の報告で、中国軍のロケット軍が保持する地上配備型のミサイル戦力は世界で最大規模と説明。通常の弾道ミサイルや巡航ミサイルは2200発を超えるとした。対艦ミサイルの数も十分とし、南シナ海にいる全ての米軍の水上戦闘艦船のミサイル防衛能力を無力化し得る攻撃能力を有しているとも述べた。 MRC配備で中国のこれらの数字的な優位性が一気に崩れるわけではないが、移動能力を持つMRCは中国の作戦立案者に問題を突きつけるだろうとも分析。この点で重要な抑止力にもなり得るとした。 軍事専門家たちは米軍のフィリピンでのMRC配備は恒久的な措置ではないとみている。コー研究員は、フィリピンなどでタイフォンを以前に調べておいた発射地点へ直ちに差し向けられる能力の確保は危機を切り抜けられる可能性を強めると主張。中国側のミサイル戦略における比較的にまだ新しく効果が実証されていない諜報(ちょうほう)収集、監視、偵察活動や標的を絞り込む能力に試練を与えることになるとも読み解いた。