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生還の見込みのない体当たり兵器に乗り込んだ若者たち。 戦局挽回、国民の士気高揚を目的に「一億総特攻」を打ち出す軍上層部、メディア。国民は特攻、そして特攻隊員をどう見ていたのか。 【写真】神に供えられる「いけにえ」として突進していった特攻隊員 『特攻隊員の現実』では、前線、銃後の人びとの生の声をもとに、特攻を再現する。 本記事では〈24歳京大生や22歳日大生も…神に供えられる「いけにえ」として突進していった特攻隊員​〉にひきつづき、特攻隊員の現実をくわしくみていく。 ※本記事は一ノ瀬俊也『特攻隊員の現実』から抜粋・編集したものです。

諦め

沖縄戦では、野中や及川らのように、諦めを抱きながら出撃していった隊員がかなり多かったと感じる。 神風特別攻撃隊・第一正気隊員として1945年4月28日戦死した海軍少尉・安達卓也(23歳、東大、14期飛行予備学生)は、4月2日の日記に「凡太郎は学生生活において知性に目覚めて以来、歴史について、死について、苦悶と思考をつづけてきた。それは未解決のまま残されている。/だが今はそれが別の意味で解決されている。/もう苦悶も悩みも存在する余地がない。それは意味なき意味であり、未解決の解決である」と記した(白鴎遺族会編『増補版 雲ながるる果てに』)。 「凡太郎」は安達自身を指す。死の恐怖、悩みはその解決を諦めることで逆に解決されたのであった。 別の陸軍将校も、諦めを抱えていた。陸軍少尉・梶山義孝の回想によると、1945年4月11日、敵を発見できず帰還した同期生の司偵特攻隊員・東田一男少尉を(おそらく第六航空軍の)参謀副長が面罵した。なぜおめおめと生きて帰ってきたのか、というのである。 梶山はその場に同席しており、義憤のあまり副長を軍刀で突き剌したいという衝動、殺意に駆られた。「東田、済まん。怒るなよ。犬死するなよ」という梶山に、東田は「梶山よ。俺の心は既に『無』に近い。部下にも犬死はさせられんよ」と答えた。梶山は「そこに神を拝す」というのだが、そこにあったのは諦め、精神の空虚ではなかったか(陸士五七期航空誌編集委員会編『陸士五七期航空誌 分科編』)。 東田少尉は翌12日、再度出撃して戦死を遂げた。 第一九振武隊隊長として4月30日に戦死した陸軍中尉・四宮徹(陸士56期)が特攻直前に書いた遺書も、ある種の諦め、達観の表現とも読める。 只今より、出発いたします。/実に、喜び勇んでおります。/ちょうど、小学校時代の遠足を思い出します。どんな獲物があるかと、胸をわくわくさせて待っております。/決意とか、覚悟とかいうような、こだわりは少しもなく、本当に、全員、純真無邪気です。/小学校に通学する朝、「行って参ります」といって出かけたことを思い出します。本当に、嬉しさで一杯です。では、「行って参ります」/御気嫌よう(陸士第五六期同期生会編『礎』) 第二〇振武隊員として4月12日に出撃戦死した陸軍軍曹・寺沢幾一郎(20歳、少飛10期)は4月3日の遺書に「長谷川大尉殿を隊長とした私の部隊、第二〇振武隊が日本一の精強特攻隊であることは、皆様に喜んで戴きたい事実です」と記した(知覧高女なでしこ会『知覧特攻基地』)。 四宮中尉も寺沢軍曹も、すべてを諦めていた。ただ、自分一人ではなく気心の知れた仲間と一緒に死ぬことのみが、最後の喜び、心の支えになっていたのではないか。 戦争を生き残った特攻隊員・今井光陸軍少尉は、4月6日の沖縄出撃(第6航空軍の第一次航空総攻撃)の際、乗機は離陸可能ではあったが、増加燃料タンクからの送油不良のため、同時に出発予定だった清沢守少尉(特操1期)に飛行機の交換を申し渡した。すると清沢は凄い見幕で「何故私を残すんだ」と怒った。そのため今井は調子の悪い機で発進した(陸士五七期航空誌編集委員会編『陸士五七期航空誌 分科編』)。 交換に応じればその日は生き延びられるはずの清沢少尉が激しく怒ったのは、総攻撃への参加という興奮もあるだろうし、命を惜しんだと後ろ指を指されるのを嫌ったのもあるだろう。それ以外に、今度は見ず知らずの人ばかりの別の隊に配属され、一人で孤独に死なねばならないというおそれもあったのではないか。 結局、今井の乗機は予想より早く、徳之島付近を過ぎたころに燃料ランプが全部「赤」になったため、途中の徳之島の飛行場に着陸した。清沢ら他の僚機は翼を振りながら沖縄に向け飛行して行き、帰らなかった。 徳之島から生還した今井はその後、福岡市にある「振武寮」に送られる。そこは特攻生還将校たちの収容施設で、なぜ生きて帰ってきたかと上官に毎日激しくなじられる“再教育”を受けることになる(大貫健一郎・渡辺考『特攻隊振武寮』)。