老後資金、最大の準備は“稼ぐ力”をつけること 好きな仕事で孤独も回避
老後に向けた資金作りをする上で誰もが考えることは「貯蓄」「投資」そして「節約」といったことがらです。確かに老後のお金のことを考えるのは必要です。ところが意外と気づいていないことがあります。それは「老後に孤独に陥る不安」です。
老後の三大不安、意外と意識していないのは?
よく言われる「老後の三大不安」は病気、貧困、孤独です。このうち、病気と貧困については誰もが重要であることを認識しています。健康は誰にとっても最大の関心事ですし、お金の問題も常に不安がつきまとうのは事実だからです。ところが「孤独」だけはあまり意識していない人が多いようです。その理由は明白です。誰もが現役時代は決して孤独ではないからです。 仕事をしていれば、常に人との接点はあります。家族も普段は接する時間が少ないからこそ、休みの日には話をしたり一緒に食事に行ったりするのが楽しいのです。ところがサラリーマンが会社を辞めて何もしないでいると、突然“孤独”が襲い掛かってきます。いや、周りに人はいるのです。ところがその人たちとのつながりがない。仕事をしていれば、嫌な思いをすることがあったとしてもつながりはあります。会社という「場」がなくなった途端に言いようのない孤独感に苛まれるのは経験した人でないとわからないでしょう。 さらに家族との関係も微妙です。それまで時間的、空間的に程よい距離があったためにうまくコミュニケーションができていたのが、退職してずっと家にいるようになると関係がぎくしゃくしてくるというのもよくある話です。つまり現役時代には意識することのなかった“孤独”はそれまで何も準備していないことが多いため、最も深刻な問題になる可能性があるのです。
働き続けることで老後の三大不安は解消される
それを解消するためにはどうすればいいか? 結論を言えば、定年退職後も働き続けることです。それも現役時代のような働き方ではなく、収入は下がってもいいから、自分のペースで自分がやりたいと思う仕事をすることです。働くことによって老後の三つの不安は解消します。多い少ないは別として、働くことでいくばくかの収入を得ることはできます。無理のないペースで働き続けることはむしろ健康によいといえるでしょう。そして働き続けることで人とのつながりも新しく出来、孤独に陥ることもありません。 このように言うと、多くの人は「働きたくても働けない」とか「自分には特別な能力がないので無理」という人が多いのですが、決してそんなことはありません。少なくともそれまでサラリーマンで一つの仕事をやってきた人は営業なり、総務なり、経理なりと働いてきた部門は違ってもそれなりの専門性を持っているのです。そのことに気づいていない、あるいはそれをアピールできていないというだけのことなのです。 ではどうすればいいのか? ということですが、サラリーマンであれば何よりも大切なことは会社の外に人脈を持つことです。ここでの“人脈”というのは単なる知り合いのことではありません。自分の能力を理解してくれている人のことを言うのです。そういう意味では現役のサラリーマンにとって社内の人は間違いなく人脈ですが、退職したら関係は消えてしまいます。だからこそ外に“人脈”を作ることが大切なのです。 人脈はいわば「稼ぐ力」と置き換えてもいいでしょう。金融機関は、よく「お金に働かせましょう」と言いますが、それは退職者から退職金を取り込むための宣伝文句に過ぎません。私は投資で“お金に働かせる”ことよりも稼ぐ力を身につけて“自分が働く”ことの方がずっと大切だと思っています。そして稼ぐ力を身につけると同時にそれまでの自分の仕事とは全く異なる人生を思い描くことも面白いかもしれません。 “天下り”よりも“川下り” 昨年、滋賀県の近江八幡市というところに行きました。ここは水郷として有名なところで、船頭さんが手で艪を漕いで巡るという実にのんびりした風情の水郷巡りができます。そんな水郷巡りの船頭さん達を見ていると、比較的年配の方が多いのです。聞くところによると船頭さんの多くは60歳~80歳ぐらいの言わばシニアの人たちだそうです。さらに興味深かったのは勤め人をリタイアした方が、第二の職場としてこの川下りの船頭さんをやっている人もかなりいらっしゃるということでした。 ある船頭さんは、高等学校の校長先生を退職した後にこの仕事に就いたそうです。地方においては高校の校長と言えば地元の名士です。その先生も色んなところから「うちに来てほしい」というお誘いがあったのを全て断って船頭さんになったそうです。「わしゃ、“天下り”よりも“川下り”を選んだちゅうことや」-思わず拍手を送りたくなりました(笑)これこそ、まさに老後の理想の人生の一つだと思ったからです。 退職後に自分で稼ぐ力を身につけること、そして自分の思い描く理想の人生を実現する準備をすることが40代に必要なことだと思います。 (経済コラムニスト・大江英樹) 日本証券アナリスト協会検定会員、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行動経済学会会員。著書に『定年楽園』『その損の9割は避けれる』(三笠書房)『老後貧乏は避けられる』(文化出版局)、最新刊に『はじめての確定拠出年金投資』(東洋経済新報社、6月10日発行)がある。