標高900m超の山間地で紅茶栽培? 「全く向かない土地」で、48歳が市役所を辞めてまで挑戦する理由
既に3分の2が枯れる厳しいスタート
茶葉にとって過酷な環境の戸隠で育つのか―。 長野市七瀬中町の元市職員、白岩孝之さん(48)が標高900メートルを超える戸隠地区の畑で、茶葉の栽培に挑んでいる。市職員を退職後、茶の本場・静岡で学び、5月末に耐寒性の強い国産紅茶専用の品種1200本を植えた。既に3分の2が枯れる厳しいスタートだが、春の茶摘みを目標に越冬の準備に力を入れる。 【写真】戸隠連峰を望める茶畑
「残りの人生このままでいいのか」
京都府亀岡市出身。1995年に地元の高校を卒業後、旧戸隠村(現長野市)で勤務を始めた。昨年3月、50歳を前に「残りの人生、今のままでいいのか」と考えて退職。そんな時、市職員時代のつながりで、国内の紅茶生産者らでつくる「地紅茶学会」(鳥取県)の関係者の話を聞く機会があった。茶葉を育てたいとの思いが強くなり、「丸子(まりこ)紅茶」で知られる静岡市の農家に「弟子入り」した。
白岩さんの茶畑は10アール。戸隠連峰などが見渡せる山間の、一面に広がるソバ畑の一角にある。育てているのは静岡産の希少な「紅ひかり」など。順調に進めば、来年5月の剪定(せんてい)時に茶葉を摘むことができそうだが、遅霜の影響を受ける「一番茶」の育ちは良くないと見通し、味が良くなる7月の2番茶に照準を合わせる。
「茶の栽培に全く向かない土地」
ただ、戸隠での挑戦は困難を極める。茶の栽培は酸性土壌で保水力がある土地が適しているが、戸隠の白岩さんの畑は中性。火山灰土で保水力がなく、朝に水をまいても昼には乾く。「茶の栽培には全く向かない土地」(白岩さん)といい、紅ひかりも1カ月で半数が枯れた。
戸隠にこだわる理由
そこまでして戸隠にこだわるのは、市職員時代に地域おこしに携わった場所だからだ。旧戸隠村時代も含め、職員として振興に関わってきた戸隠は自身の「原点」。その場所で茶栽培の仲間をつくり、作付面積を増やすことを夢に掲げる。「産業として育てば地域が豊かになる。役に立ちたいという思いは一貫してぶれていない」
戸隠でも栽培ができるよう、土壌改良に取り組む。あえて生やした雑草の根を残したり、麦わらをまいたりして保水力を高めた。冬の寒さ対策は新潟の栽培地で学んだ。茶木が雪に埋もれて木が傷むことを防ぐため、1本ずつ稲わらを巻く予定だ。
うまくいけば…描く夢
茶葉の栽培がうまくいけば、自身が育てている小麦粉とともに地域の喫茶店やパン店、ホテルで使用してもらおう―と展開案を描く。戸隠にはインバウンド(訪日客)が多いことも念頭に、「栽培が軌道に乗れば、茶葉を紅茶に仕上げる設備も整えたい」と次を見据えている。