「カメ止め」の再来? 異例ヒットの自主映画『侍タイムスリッパー』と『カメラを止めるな!』に共通する、インディーズ映画「ヒットの法則」
マーケティング論の基本概念に「マーケティングミックス(4P)」がある。このフレームワークは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)およびプロモーション(Promotion)の4つの要素を有効に組み合わせて、マーケティング戦略を計画、実施していくというものだ。映画作品は、これら4つの要素いずれにおいても、制約条件が大きく、特殊である。 最も特徴的なのが「価格(Price)」だ。劇場映画は、「製作費が安いから」「ヒットが見込めないから」といって、入場料を自由に下げることはできない。
ハリウッド映画の中には、数百億円の制作費をかけた作品もあるが、300万円の制作費しかかけていない「カメ止め」のような作品も、ほぼ同一の入場料で戦わざるを得ない。 「流通(Place)」のコントロールも難しい。制作側が「多くの人に見てもらいたい」と思ったら、上映してくれる映画館を十分に確保する必要があるが、インディーズ映画ではそれも簡単ではない。 最近では、劇場公開と並行して、あるいは劇場公開に先立ってインターネット等で配信を行う場合もあるが、一般的とも言い難い。
「製品(Product)」については、何度も劇場で鑑賞したり、DVDや配信で再視聴したりする人たちもいるが、大半の観客は一度だけ鑑賞する。つまり、映画作品はリピーターがほとんどいない特殊な「商品」である。 こうした制約条件があるため、インディーズ映画を大ヒットさせることは、至難の業なのだ。だから、「カメ止め」が「奇跡」と称賛されつつも、「再現するのは難しい」と言われてきた。逆に言えば、制約条件を打破する、あるいは制約条件を前提とした打開策が見いだせれば、ヒットを生み出すことができるとも言える。
■ヒット作品に共通する要素 「侍タイムスリッパー」と「カメ止め」がヒットを生み出した共通要素として、下記の点が挙げられる。 1. 作品の質が高いこと(期待を大幅に上回る価値を与えてくれること) 2. 監督や関係者が映画や作品に熱い思いを抱いており、それが観客に伝わること 3. 監督・作品・制作過程に、語るべき「ドラマ」があること 4.(SNS等で)話題にしたくなるネタが豊富にあること 「作品の質が高い」というのは当たり前のことなのだが、メジャーな作品の中には、観客の評価が低かったにもかかわらず、ヒットした事例が少なからずある(あえて作品名は挙げないが)。