現代の恋愛描く『四月になれば彼女は』の裏側 俊英・山田智和が長編監督デビュー
そんな藤代が向き合うべき問題の手がかりとして描かれたのが、弥生が思い出の詰まったワイングラスを割ってしまう映画オリジナルのシーン。動揺し、ショックを受けた様子の弥生に対し、藤代は冷静にグラスのかけらを集めて片付ける。よくある日常の中のアクシデントのように見えるが、藤代と弥生の決定的なすれ違いを示すシーンとなっている。山田監督は、本シーンが生まれた経緯や意図をこう語る。
「脚本会議の時に川村さんと話していた時に出たアイデアだったと思います。2人の思い出や記念日を忘れていたり、ないがしろにしてしまう瞬間ってすごくつらいよねと。そして引き金となるのは、例えば洗面台の排水溝が詰まっているとか、自分たちの手が届く大切なモノや事柄の積み重ね。そこに、藤代が向き合うべき問題のヒントがあるんじゃないかというのが僕と川村さんがたどり着いた一つの答えでした。もちろんそれが全てではないですが、このシーンは、その象徴として取り入れた感じです」
なお、世界各地を旅する春のウユニ、プラハ、アイスランドでの撮影は、日本のクルーに加え現地スタッフを動員して実施。「とにかく移動が大変だった」と言い、とりわけウユニ塩湖は鏡面が出るかどうか運頼みだったこともあり「春のセリフじゃないけど、見えないものを撮りに行くような感覚だった」と山田監督。「この作品ではウユニ塩湖もアイスランドも、始まりであり終わりでもある場所。なので単なる絶景に終わらず、登場人物の感情が押し寄せてくるようなものにしたかった。実際に原作を執筆する前に川村さんが旅した場所でもあるのでその時の気持ちや、春がどういう気持ちでこの地を訪れたのかが伝わったら」と願いを込めていた。(取材・文:編集部 石井百合子)