<センバツ21世紀枠>候補校紹介/4 三島南(東海・静岡) 子どもらの声援、背に励む
普段は野球部員たちのかけ声が響くグラウンドで、幼児や児童がボールとたわむれながら楽しそうな声を上げていた。寒風が吹き抜ける昨年12月19日。静岡県三島市の三島南高で、未就学児から小学2年生までの子ども34人が参加した野球体験会が行われた。ジャージー姿の部員たちは、手取り足取りボールの投げ方を教えたり、ボール当ての的役を務めたり、野球の入り口となる楽しさを懸命に伝えていた。 体験会を考案したのは、2013年に同校に赴任した稲木恵介監督(41)だ。「三島の学校に勤める者として、何か地元に貢献できないか」。模索した末に、このアイデアにたどり着いた。 翌14年末から幼稚園に出向いたり、園児をグラウンドに招いたりして体験会や教室を開催してきた。これまで参加してきた子どもたちは延べ1000人にも達する。今や、体験会の開催を告知すれば申し込みが殺到する地域の人気行事となった。この日参加した、近くの幼稚園に通う金子倫太朗ちゃん(5)も「お兄ちゃんたちに教えてもらえて、すごく楽しかった」と目を輝かせた。 三島南は1919年創立の公立高で、グラウンドもハンドボール部やサッカー部などと共有している。決して恵まれていない環境に加え、体験会などに貴重な練習時間を割くことになるが、選手たちは前向きだ。主将の伊藤侍玄(じげん)=2年=は「わずか数時間の違いで劇的にうまくなることはない。むしろ、子どもたちに野球を教えるために、自分の体の動かし方を見つめ直したりとプラス面もある」と語る。 一方で効率的な練習方法にも取り組んでいる。撮影した動画を数十秒遅れで再生できる機材を導入し、フリー打撃やダッシュの直後に選手が自ら動きを確認している。「フォームなど自分の課題にすぐに気付くことができる」と中軸の前田銀治(2年)は強調する。 昨年の秋季静岡大会では4強入り。東海大会にこそ出場できなかったが、甲子園常連校の静岡を準々決勝で破るなど地力はある。子どもたちの声援を背に、選手たちは夢がかなうことを信じて日々、練習に励んでいる。【岸本悠、写真も】=つづく