「何もしないでください」と言われた草笛光子、自然体で毒を吐く…映画の単独主演は初
人気エッセーが原作のコメディー「九十歳。何がめでたい」が公開中だ。卒寿の草笛光子が、原作者で100歳の現役作家、佐藤愛子をはつらつと演じている。鋭く本質をえぐるセリフの数々に共感したといい、「演じたのかしら? ズバズバ言えて気持ちよかった」と朗らかに語る。(木村直子)
意外にも映画の単独主演は初めてだ。酸いも甘いもかみわけた作家役にふさわしい風格を表すのに、この人以上の適任者はいなかっただろう。「あるがままだから、面白いのよ。90歳がめでたいって、うそばっかり。何がめでたいのよ」と豪快に言い放つ。
高齢を理由に断筆宣言した愛子先生(草笛)は、中年編集者の吉川(唐沢寿明)の強引な説得に負けて連載エッセーをしぶしぶ引き受ける。切れ味鋭く含蓄がある言葉は世代を超えて反響を呼び、ブームが巻き起こる。退屈を持てあましていた愛子先生の日常も再び活気づく。
自慢の銀髪を黒く染め直すなどして撮影に臨んだが、演技については「そんなに難しく考えてやっていない」。吉川ほか、同居する娘(真矢ミキ)や孫娘に憎まれ口をたたくシーンも品と愛嬌(あいきょう)がある。
長寿は節目ごとに祝うべきだが、心がこもらない儀礼的な行事はむなしいだけ。高齢者の胸の内を代弁したような毅然(きぜん)とした態度は、理想的な老いの在り方も問いかける。原作エッセーの独特のユーモアと毒を自然体で見せた。
1950年に松竹歌劇団に入団。映画、舞台の第一線で活躍してきた。キャリアを重ねても飾らない人柄を慕い、相手役の唐沢や真矢、演出家の三谷幸喜ら豪華な顔ぶれがベテランの主演女優を支えた。
喜劇映画「社長」シリーズの出演でも知られ、コメディーセンスは天性のものだろう。浪費癖のある姑(しゅうとめ)を演じた「老後の資金がありません!」でも組んだ前田哲監督から「そのままで面白いから、何もしないでください」と言われるほど。アドリブも多く、現場は笑いが絶えなかったようで、「私はそんなにおかしくやっているつもりはないんだけれど、周りが勝手に笑っているの。何が面白いんだろう」と不思議がる。