「プエルトリコはごみの島」トランプ陣営の暴言にヒスパニック系が動いた(2)
(1の続き) 選挙の行方を変えうる選挙直前の事件を意味する「オクトーバー・サプライズ」は、米大統領選挙において実際にはどれほどの効果があるのだろうか。米大統領選挙の歴史を振り返る必要がある。 2010年の中間選挙で惨敗したバラク・オバマ大統領(当時)にとって、2012年の再選はそれほど容易なものではなかった。共和党の大統領候補だったミット・ロムニーは、人格と政策の面で比較的しっかりしていた。第1回の候補討論会でのロムニーの善戦で雰囲気が反転し、世論調査でロムニーは勢いづいた。 現職のオバマが必勝を期すべき州は、29人の選挙人団を抱えるフロリダだった(今回はペンシルベニアがそのような州だ)。選挙1週間前の10月末にハリケーン「サンディ」がフロリダの一部地域を貫通し、北東部地域にも大きな被害を与えた。「チャンス」をつかんだオバマは、ハリケーンの復旧作業を選挙運動と結び付けた。最も深刻な被害を受けたニュージャージー州の共和党所属の州知事、クリス・クリスティーとともに、オバマ大統領が被災地域を支援して回り、復旧作業を指揮する姿が、連日全国の地上波で放送された。 ハリケーンの被害に最も敏感な州はフロリダだ。フロリダの有権者がオバマのこのような姿をリアルタイムで見つめる中で選挙は行われた。ミット・ロムニーへと傾くと思われたフロリダでは、それこそ0.7ポイントの票差でオバマが勝った。フロリダ州の29人の選挙人団がオバマのものになった。 オクトーバー・サプライズが初めて米国の政治用語として登場したのは、1980年の大統領選挙でのことだった。当時のジミー・カーター大統領と挑戦者ロナルド・レーガンとの対決だった。選挙が近づくにつれ、カーター大統領は支持率低迷を打開する方法を考えなければならなくなった。ほぼ1年間イランに抑留されていた52人の米国人の人質を解放できれば、窮地に追い込まれた大統領にとっては外交的に大きな成果になりえた。当然、レーガン陣営はこの可能性に緊張した。レーガン陣営の選挙運動を指揮していたビル・ケイシーは、カーター大統領はそのような「オクトーバー・サプライズ」を計画しうると公開の場で警告した。 結局、人質解放は大統領選挙の直後となった。レーガン側がイランに対してロビー活動をおこなったかどうかについて下院による調査が行われたが、嫌疑なしとの結論が下された。しかし、後の時代に出たレーガンの伝記では、ビル・ケイシーとイランとの間に意思疎通があったことが示唆されている。 1992年の挑戦者ビル・クリントンと父ブッシュ大統領との大統領選挙では、「イラン・コントラ」スキャンダルによる選挙直前でのレーガン政権の国防長官を務めたキャスパー・ワインバーガーの起訴がオクトーバー・サプライズだった。 米国が捕虜となっていた米国人を解放するためにイランに武器を違法に輸出し、その販売収益をニカラグアの反政府組織コントラに送っていたというこの事件は、レーガン政権をほぼ崩壊にまで追い詰めた。レーガン政権の副大統領だったブッシュ大統領は、この事件について国防長官よりも多くのことを知っていたのではないか、との疑惑が選挙中に広がり、最終的にブッシュ大統領はクリントンに敗北し、再選に失敗した。 2000年のジョージ・ブッシュとアル・ゴアの対決では、選挙直前にある記者が24年前にジョージ・ブッシュが飲酒運転で摘発されていたことを暴露した。ブッシュのキャンペーン戦略家を務めたカール・ローブは選挙後、この暴露によってブッシュは最大で5つ州の投票で大きな損失を被ったと語った。この選挙でアル・ゴアは、全国的な大衆投票では大きく勝利したものの、選挙人団の数で決定的だったフロリダ州で再集計が行われず、勝者にはなれなかった。 2016年のトランプとヒラリー・クリントンの対決でのオクトーバー・サプライズは、今も生々しく語られている。当時、米連邦捜査局(FBI)の長官だったジェームズ・コミーが、投票日の11日前にヒラリー・クリントンの電子メールに対する再捜査を発表し、選挙2日前に嫌疑なしとして終結を発表したのだ。 2017年、CNNの看板アンカー、アンダーソン・クーパーとのインタビューでヒラリー・クリントンは、2016年の大統領選挙での敗北はコミー長官のeメール再捜査指示のせいだとしつつ、コミーは「歴史を永遠に変えたと考えている」と語っている。 米国の大統領選挙は巨大な国家で実施される非常に複雑で大きな選挙だが、選挙人団制度のせいで実際には激戦州の浮動層密集地域であるわずか数カ所で勝者が決まるという、非常に「狭い」選挙となっている。今年の選挙は、ペンシルべニア州の4つから5つの選挙区で、数千票差で勝者と敗者が分かれる。もちろん事前投票、早期投票、郵便投票ですでに多くの有権者が投票を済ませているが、彼らの大半は選挙キャンペーンによっては動かない固定支持層だ。選挙終盤まで決定を留保している浮動層有権者をターゲットにしたキャンペーンは、運動員が直に町の中を駆け回るというやり方以外はない。トランプも4年前にそれを疎かにして敗北しており、8年前のヒラリーもこのやり方を無視して、勝ったかに思われた選挙で敗者となった。 米大統領選挙の勝者はどちらか。選挙はふたを開けてみないと分からない。 キム・ドンソク|米州韓人有権者連帯(KAGC)代表 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )