「日本に来ないで」 ネットにあふれる外国人観光客への罵倒! “観光立国”なんて実はタテマエ? 「外国人嫌悪」という現代病から考える
調査で明らかになった結果
ゼノフォビアは、実は私たちが思っている以上に身近に存在している。それは、インバウンドで外国人が急増した一部の観光地だけの問題ではない。 北九州市立大学の宮下量久氏・内田晃氏による「関門地域におけるインバウンド政策に関する調査研究:北九州空港・北九州港・下関港を事例として」(『関門地域研究』Vol.26)では、2016年に北九州・下関両市民のインバウンドに対する意識を調査している。 まず、この調査では、人口減少対策や地域活性化に必要な取組に対して「観光客の増加」を挙げる人が ・北九州市:11.2% ・下関市:21.2% であることを論拠とし、下関市民は北九州市民よりも観光による地域活性化に期待する傾向があるとしている。 ただ、増加を挙げても、市民はインバウンドそのものを歓迎しているのだろうか。結果はむしろ真逆だ。「外国人観光客の増加の賛否」という調査項目を見ると賛成と回答した人の割合は、 ・北九州市:39.1% ・下関市:45.2% となっている。両市ともインバウンドに賛成している人は半数にも満たないのだ。 さらに、この調査では回答者の居住地別に集計を行っているが、賛成は北九州市では戸畑区、下関市では本庁所管地域(下関駅周辺、唐戸など)で最多となっている。これは、北九州市では2016年に戸畑祇園大山笠が国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化財に登録されたこと、下関市では唐戸に唐戸市場などの観光資源が集中していることと関係していると見られる。 一方で、反対の最多地域は北九州市では若松区(反対24.1%)、下関では山陰地域(川中・安岡・吉見・勝山・内日支所の範囲。反対20.2%)となっている。 この調査はインバウンドに対する態度が地域によって大きく異なることを明らかにしている。特に注目すべきは、観光に依存していない地域での顕著な拒否感だ。
関門地域の歴史と矛盾
例えば、北九州市若松区(若松港周辺の産業遺産を除けば農地や住宅地が多い)、では、インバウンドに対する反対意見が最も多かった。このことから次のような洞察が得られるのではないか。 ●異質に対する恐怖 観光資源の有無がインバウンドに対する意識に影響を与える。これは、未知のものに対する本質的な恐怖心を反映しているのかもしれない。 ●経済効果に対する認識と受容 観光による恩恵を直接的に実感できる地域ほど、インバウンドに好意的な傾向がある。異文化受容においては「利益」が重要であることを示唆している。 ●接触の質と偏見の関係 観光客との接触の「量」だけでなく、「質」も重要である。外国人がたくさんいるというだけでは偏見は減らず、むしろ摩擦を生む可能性がある。これは、大都市でも外国人嫌悪が見られるという事実とも一致している。 いうまでもなく、関門地域は、古くから 「国際貿易の要衝」 として知られている。下関港と北九州港を擁するこの地域は、戦前から国際港として栄え、現在も関釜フェリーが就航するなど、アジアとの玄関口としての役割を果たしている。多くの貨物船が行き交うこの海峡は、日本の国際化を象徴する場所のひとつといえる。 しかし、この調査結果はそんな国際色豊かな歴史を持つ関門地域においても、インバウンドに対するネガティブな感情が強いことを明らかにしている。長年にわたり外国との接点を持ち続けてきた地域であっても、観光客としての外国人の増加に対しては必ずしも寛容ではない。この一見矛盾する状況は、 ・国際的であること ・インバウンドを受け入れる ことが、必ずしも直結しないという現実を浮き彫りにしている。