『【推しの子】』星を用いたアニオリ演出を解説 Production I.Gが作画した第16話の贅沢さ
いよいよ稽古も終盤に差し掛かり、舞台『東京ブレイド』の本番当日を迎えた『【推しの子】』。第16話はタイトルである「開幕」にふさわしいエピソードとなった。 作画の違いに気づいた原作作画・横槍メンゴの投稿 ここまでの流れの中でも、有馬かなと黒川あかねの2人の対比はアニオリの演出によって効果的に描かれてきた。 あかねの演技スタイルは、与えられた役への深い考察と、それらから得た情報を元に完璧に演じきる「憑依型」と特徴づけられる。一方、有馬かなは演技に関しても自分よりも周りを引き立たせる「適応型」と言われてきた。第12話の姫川の演技にかなが感応して発動させた絵の具風のアニオリ演出も印象的だったが、対抗意識が充満した本番目前の第16話ではより発展して強烈なものになった。 その顕著な例が、原作では第54話に当たる「絶対に負けない」の表現だ。原作漫画では、いつも通りの稽古着のまま、背を向けて互いに歩き出すところまでを描いているが、アニメではつるぎと鞘姫を憑依させた二人の印象的なシーンに昇華されている。 同い年で共に子役出身の女優である2人が、いがみ合うコミカルなやりとりも印象的だった。幼少期に天才子役と称賛されたかなに憧れて、業界に足を踏み入れたあかね。まさに因縁の相手であり、お互いがライバル視し合う2人の関係性が鮮明に描かれている。 有馬かな役の潘めぐみは、ノリノリであかねを追い詰めるかなを「子役時代の有馬かなが黒川あかねを煽ってるイメージで容赦なく演りました」と語った。(※1)その言葉通り、声優の演技と相まって、“アニメならでは”のかなのかわいさが引き立った回でもあった(やや憎たらしいのは否めないが)。 あかねとかなの対比以外では、アクアの内なる闇の表現でも、原作を忠実に踏襲しつつアニメオリジナルの演出を加える手法が光っていた。注目したいのは、夜空に浮かぶ「星」を用いた表現だ。 あかねとアクアがベランダで、役者という仕事をする理由について語り合うシーンでは、画面に幾度となく夜空に輝く星が映し出される。おそらく、この星には多層的な意味が込められている。野望渦巻くエンターテインメント業界のトップを象徴する星、文字通りのスター(俳優)としての星。さらには〈一番星の生まれ変わり〉としてアイを連想させる星など、視聴者それぞれの解釈を許す奥深い表現となっている。 そして、この星のモチーフを幾度となく印象付けた後、会話の終盤、アクアの目から光(星)が徐々に失われていく様子が描かれるのだ。この視覚的な表現は、アクアの内面の変化を如実に物語っており、彼の抱える闇の深さを印象づける。 作画面では、コミカルなカットも多く見られた本エピソード。第16話の作画に「作画の雰囲気がいつもとちょっとだけちがうと思ったらやはり何かがいつもと違ったらしい」と横槍メンゴも触れている。(※2)作画について、XではProduction I.Gが『【推しの子】』の制作グロスを担当したことを助監督が明かした。(※3)「グロス請け」はアニメ制作業界の用語で、簡単に言えば、アニメシリーズの特定のエピソードや一部のシーンを別のアニメ制作会社が下請けとして制作する方法を指す。 1話丸ごとの場合もあれば、OVAや劇場版の数分間、あるいは背景や動画の一部をグロスとして受託する場合もある。つまり第16話は、Production I.Gの『【推しの子】』が観られる贅沢な回となっているわけだ。コミカルなカットと緻密な画が絶妙なバランスで融合し、原作ファンにもアニメファンにも満足度の高い仕上がりとなっている。 次週、いよいよ舞台本番の日を迎えるが、原作順守で進んできた本作が、舞台での表現をどのように作っていくのかは見どころだ。スポットライトに照らされる役者の表情や色とりどりの衣装など、アニメでしか表現できない部分もつきつめているであろう「東京ブレイド」の開幕に胸が踊る。 参考 ※1 https://x.com/han_meg_han/status/1818651895319404693 ※2 https://x.com/Yorimen/status/1818659435772006597 ※3 https://x.com/nekotomi1006/status/1818655246324768790
すなくじら