見通し甘かった韓国公捜庁、尹錫悦大統領への逮捕状再請求で経験不足を露呈…主導権は警察当局に移行か
【ソウル=小池和樹】韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による戒厳令宣布を巡る捜査は、尹氏への逮捕状が再請求される事態となり、捜査を主導してきた高位公職者犯罪捜査庁(公捜庁)の経験不足が露呈する形となった。逮捕状の執行に向けて戦略の練り直しが迫られる中、今後は強硬姿勢を示しているとされる警察当局が主導権を握るとの見方が出ている。 【図】「戒厳令」宣布を巡る捜査の動き
「大統領警護庁が(逮捕状執行に)ある程度は協力してくれると思った。あれほど抵抗が強いとは思わなかった」
公捜庁幹部は6日の記者会見で、同庁や警察などの合同捜査本部が尹氏の逮捕を試みて失敗した3日を振り返り、見通しの甘さを認めた。当日は公捜庁20人、警察80人の100人態勢で臨んだが、警護庁は約200人が道路をふさぎ、捜査本部側は着手から5時間半で撤退を余儀なくされた。
公捜庁の捜査能力は、当初から疑問視されていた。2021年に発足したばかりで検事は十数人にとどまり、容疑者の拘束実績はゼロ。それでも、検察や警察から尹氏の捜査の移管を受け、昨年12月31日には史上初めて現職大統領の逮捕状発付までこぎ着け、同庁トップの呉東運(オドンウン)庁長は「期限内に逮捕状を執行する」と自信を見せていた。
ただ、6日の会見では「逮捕状執行が遅れて申し訳ない」と一転して幹部による謝罪に追い込まれた。
逮捕状の執行を巡り、捜査本部内での足並みの乱れもあらわになった。公捜庁は執行を一任する考えを警察に伝えたものの、法的問題点を指摘され、同意を得られなかった。「執行責任を丸ごと押しつけようとしている」(中央日報電子版)との批判も噴出し、与党「国民の力」の報道官は6日、「基本的な専門性と責任感がない。廃止論が強まるのは当然だ」と酷評した。
公捜庁の求心力低下が避けられない中、今後の主導権を握るとみられるのが警察だ。警察は3日、逮捕状の執行阻止に動いた警護庁幹部らを特殊公務執行妨害容疑で逮捕するよう主張したとされており、強硬姿勢で臨んでいる。聯合ニュースによると、6日も警察関係者は次回の逮捕状執行の際には「(警護庁職員を)逮捕する案を検討している」と明らかにしたという。
一方の警護庁は5日、逮捕状執行を阻止する姿勢を強調。敷地内に鉄条網を設置する様子も韓国メディアに捉えられた。捜査本部が再度の執行を試みた場合、公的機関同士の衝突に発展する懸念も出ている。