ちな&角野隼斗インタビュー。アニメーション映画『ファーストライン』で“同世代”コラボ
未来のクリエイターを支援するプロジェクトから生まれた短編オムニバス映画『GEMNIBUS vol.1』が、6月28日(金)から2週間限定で公開になる。 【画像】角野隼斗、ちな監督インタビュー写真 本作には4つの短編が集結したが、その中に短編アニメーション作品『ファーストライン』が含まれている。若いアニメーターの情熱、葛藤、苦闘を繊細かつダイナミックに描いた作品で、『平家物語』や『薬屋のひとりごと』などでも演出を手がける、ちなが脚本と監督を担当。ピアニストの角野隼斗が音楽を手がけた。 どちらも28歳のふたりは、単に監督と音楽家としてではなく“ジャンルの異なる分野で活動してきた同世代”としてコラボレーションをして『ファーストライン』を完成させた。 ちな監督 東宝のプロデューサーの方から「一緒に作品をつくりましょう」と声をかけていただいて、アニメーション映画をつくることは決まったのですが、最初はなかなか企画がうまくまとまらなかったんです。僕とプロデューサーの方で一致しているのは、“アニメ映画をつくりたい”ということなので、アニメーション映画をつくる人たちそのものを題材にしようと思ったんです。 また、短編アニメーションなので、昔のディズニーの短編作品『シリー・シンフォニー』シリーズのような映像と音楽が完全にシンクロしているものをやりたいと最初から思っていました。 角野 最初にお会いした時に、この作品では音楽が重要な位置を占めていて、音で遊んだり実験できるようなものにしたい、と伺ったので、面白いものになりそうだと思っていました。 ちな監督 最初の打ち合わせの時から「音を使って面白いことがしたい。そこに描かれている画のニュアンスも音で表現したいし、無音ですら音楽として捉えられるものにしたい」という話はしましたね。 角野 僕は映画音楽や劇伴の経験がそれほどあるわけではないので、逆に“ありきたり”なものはつくりたくないと思っていました。ただ、映像ありきで音楽を考えたかったので、画コンテを前に何度も何度も即興でピアノを弾いて、そこから良いものを選んで……というところからつくっていきました。 ふたりが語る通り、本作では映像と音楽がシンクロして作品が進んでいく。音楽は映像に合わせて展開し、時に音楽が映像やアニメーションのトーンやキャラクターの演技を左右する。考え方によっては窮屈さを感じたり、“制限”にもなりえるこの状況を、ふたりは創造性を発揮する武器にしたようだ。 角野 窮屈だと思われる方がいるのもわかるのですが、僕は面白みを感じました。“制約”の中で生まれるクリエイティビティがあると思っていて、そういうものが好きなんですよね。限られた制約の中で最も面白いことをするにはどうすればいいか? 片手で音ゲーをプレイするみたいな(笑)。創造というのは自由であれば良いというものでもなくて、適度な制約が創造性をより広げることもあると思います。 ちな監督 角野さんがおっしゃったことに僕も共感できる部分があります。アニメの仕事も原作であったり、時間であったり……何かしらの枠はあるわけで、制約は常につきまとうものですよね。だからこそ、制約の中でどれだけ表現できるか、どれだけ自分を出していけるのかは普段の仕事でも意識しています。2Dの手描きのアニメーションは、これまでにずっと積み上げられてきたものがあって、表現としてはもう出尽くしていると言われるんですけど、自分としてはさらにまだあるはずだと思っていて、それがこの作品にもつながっていると思います。 本作ではアニメーションのために描かれる線も、そこで鳴り響く音楽も自ら制限を設け、限られた線で、限られた音でどこまで豊かに表現できるかの挑戦が行われている。 ちな監督 線をどう表現するのか、どの線を選ぶのかにアニメーションの表現や美意識がある。日本のアニメーションが創成期から積み上げてきた線の美意識ってあると思うんです。僕はそこに影響を受けてアニメ業界に入ってきました。いまのアニメーションは線が増えていて、線を増やすメリットもあるんですど、増やすことよりも、どれだけ少ない線でニュアンスをこめられるのか、密度を高めていけるのか? これもひとつの制約ですよね。