トヨタが警鐘! 中国の威圧と「先端半導体」を巡る米中競争の深刻化、規制が自動車業界にもたらす終わりなき苦悩とは
半導体規制の激化と代償
一方、中国もこの動きに対抗するため、さまざまなけん制策を示している。例えば、2023年7月下旬に日本が半導体分野での対中輸出規制を実施した直後、中国は半導体製造に必要な希少金属ガリウムやゲルマニウム関連製品の輸出規制を強化した。 これにより、これらの製品を輸出する業者は事前に政府に許可申請を行う必要がある。この影響で、日本は多くを中国から輸入しているため、国内で動揺が広がった。 2023年8月には、日本産水産物の全面輸入停止が実施され、これも先端半導体をめぐる動きの一環と考えられる。さらに、中国は最近、希少金属の一種であるアンチモンを輸出規制の対象に新たに加え、無許可での輸出を禁止した。アンチモンは半導体の材料として使用されており、中国はその生産において世界シェアの50%近くを占めている。 また、10月からはレアアースの統制を強化する管理条例の施行が予定されており、中国は 「何か実行されればすぐに対抗措置を取れる」 との姿勢を示している。これにより、日本などをけん制する狙いがあると考えられる。トヨタ自動車をはじめとする日本の製造業にとって、中国が希少金属へのアクセスを遮断することは大きな打撃となるだろう。9月上旬に中国が警告を発した背景には、こうした経緯がある。
米中貿易圧力の影響
最後に、トヨタ自動車が抱える懸念は今後も解消されにくい。なぜなら、米大統領選ではトランプ氏とハリス氏が支持率で接戦を繰り広げており、互いに批判し合っているものの、中国に対する姿勢には大きな違いがないからだ。 トランプ氏は中国製品に対する関税を一律60%に引き上げて、中国にお金を支払わせる考えを示している。一方、ハリス氏はトランプ政権の4年間で米国の半導体が中国に流出し、それによって中国軍の近代化を助ける結果になったと指摘しており、バイデン政権の先端半導体の輸出規制などの政策が機能的だと主張している。どちらも、中国への貿易規制を強化する姿勢を崩していない。 したがって、2025年発足する米新政権は、先端半導体などテクノロジー分野で引き続き中国に対する輸出規制を強化するだろう。また、必要に応じて日本にも協力を求めてくるはずだ。協力というより 「圧力」 という表現の方が適切かもしれないが、安全保障上の理由を示されれば、日本としては米国の要請を拒否するのが難しくなる。その結果、中国は日本への不満を強めることになるだろう。したがって、トヨタ自動車が抱く懸念は今後も続くと考えられる。
和田大樹(外交・安全保障研究者)