新勝寺の襖絵(10月5日)
千葉県成田市の成田山新勝寺は千年以上の歴史を持ち、年間1千万人の参拝者を集める。不動明王をまつる本堂では護摩がたかれ、御真言が響く。歌舞伎の市川宗家との深い縁でも知られる。参道には名物のうなぎの店が並ぶ▼今年4月、将棋の名人戦の舞台となった。境内の光輪閣で藤井聡太名人が豊島将之九段に勝利し、初防衛に弾みをつけた。咲き誇る三春滝桜が名人の右手奥の襖[ふすま]、神々しい日輪が九段の背の襖に描かれ、最高峰の勝負を彩った▼二本松市出身の日本画家・大山忠作さんが44年前に襖絵を完成させた。賓客を迎える二つの大広間に日と滝桜、月と福島市高湯の華麗な楓の絵を配し、「日月春秋[にちげつしゅんじゅう]」と呼ばれる。初めて里帰りし、市大山忠作美術館の展示室に飾られた。1日から来月17日までの襖絵展で鮮やかな光彩を放つ▼開幕の日、新勝寺寺務長の伊藤照節さんは「襖絵は寺の宝。大山さんの古里の美しい原風景を多くの人に感じてほしい」と語った。大山さんは戦地から生還し、命をかけて絵筆を執り続けた。日展会長を務め、文化勲章を受けて画壇発展にも尽くした。「終生の画業」と魂を込めた筆遣いを間近で確かめ、巨匠の意気に触れてみたい。<2024・10・5>