遅すぎた「夢の対決」 メイウェザー対パッキャオ
また、パッキャオに衝撃的なKO勝ちをしているマルケスも、夢対決に関して「確かにファンが待ち続けた試合だ。グレートファイトを見せて欲しいが、2人とも、もう全盛期ではないだろう。フロイド・メイウェザーはPFPファイターだし、パッキャオも、そのフロイドに次いで高い評価を得ているボクサーであることは間違いないが、3年前に実現して欲しかったね」と言う。 ボクシングマニアとしても知られているロンドン五輪金メダリストで、現在ミドル級の世界ランカーでもある村田諒太(帝拳)も「今のボクシング界において間違いなく最高のカードでしょうが、旬を過ぎたことは間違いありません。ずっと『誰がメイウェザーを倒すか』が焦点でしたが、その最大の可能性をもっていたパッキャオがピークを過ぎていることは否めないんです」という意見だ。 そもそもメイウェザー対パッキャオの夢対決が、最初に浮上したのは2009年の末だった。パッキャオが、ミゲール・コットからTKOでWBC世界両者ウェルター級タイトルを奪ったことで、両者に階級という障害がなくなり、共に当時のスーパースターだったデラホーヤに土をつけていることもあって夢のビッグカードとして対戦が具体化し始めた。 マイク・タイソンが去った後のヘビー級には、実力と人気を兼ね備えたスターがいなくなり、ミドル級から2つ階級を下げた、この階級にもっともスリリングでスター性を兼ね備えた2人のボクサーが並んだのだ。全米のボクシングファンや関係者が「夢の対決」と色めき立ったのは当然だった。だが、メイウェザー側が、オリンピック式の厳格な試合前の血液採取などのドーピング検査をパッキャオに要求したことで話がこじれた。 2012年には、パッキャオが2敗してミソをつけ、これまで両者は、HBOと独占放映契約を結んでいたが、2013年にはメイウェザーが、試合契約を結ぶ局としてHBOからショータイムに鞍替えしたことで、ますます実現の可能性が薄くなった。 だが、2人は、ついに6年越しに歩み寄った。その背景には両者の人気に翳りが見えてきたという傾向がある。メイウェザーが2014年に戦ったマルコス・マイダナとの2試合の有料放送契約は、いずれも85万件、93万件で、100万件を超えなかった。パッキャオに至っては、直近のクリス・アルギエリ戦が、30万件に過ぎなかった。 しかし、両者の次なるターゲットとなると、元WBA、IBF世界スーパーライト級王者でマイダナに土をつけているアミール・カーンくらいしかいなくて、対決に注目を集めるライバルにも事欠いていた。メイウェザーにしてみれば、残り少ないであろう現役生活を考えると、大きな危機感を抱いたのだろう。パッキャオ戦という“最後のカード”を使うのは、今しかなかったのだ。