クリエイターたちが伊藤沙莉、横浜流星ら若手俳優女優陣の深すぎる演技を引き出すプロジェクト「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」
映画は観るものだ。 ホミニスの記事を読んでいる皆様の多くが自然とそう考えているかもしれない。だが、一度一瞬でも「映画を撮ってみたい」と思ったことはないだろうか。 しかし、映画を撮るには専門的な知識がいる。撮り方などわからない。そう考えるのが普通だろう。しかし、今や携帯一つで動画が作れる時代。どんなに粗くとも貴方が撮った映像を貴方が映画といえば、それはれっきとした作品である。 MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)プロジェクトはそんな「誰でも映画を撮れる」時代に映画業界の発展、クリエイターの発掘を目的に伊藤主税(いとうちから)、阿部進之介、山田孝之らが立ち上げたプロジェクトだ。シーズン1からシーズン4では419作品の中から12枠が公募枠として選ばれ公開された。名だたる監督と肩を並べて公開できるというのは大きなチャンスといえる。 そんなMIRRORLIAR FILMSも今年でシーズン5。シーズン5から8は企業版ふるさと納税を利用し、地域活性化も目的としたプロジェクトになっている。シーズン5では「秋田」を舞台に撮影が進められ、現地では映画の撮影やシナリオ作成、芝居まで様々なワークショップが開催され実際に沢山の未経験者がそれぞれの短編映画に出演した。 今回はそんな注目のMIRRORLIAR FILMSシーズン5から2作品を紹介しよう。 ■漫画家・大橋裕之の作品「変哲の竜」 まず、「変哲の竜」という作品だ。監督は大橋裕之(おおはしひろゆき)。 このお話は竜(又吉直樹)が、公園で唐突に感じた匂いがかつての親友・正樹(山田孝之)の家の2階と同じ匂いだと感じ20年ぶりに家を訪れる。そんな時、下の階から正樹とその妻・今日子(伊藤沙莉)の言い争う声を聞いて...という不思議な話だ。 何が不思議かというと、とにかく又吉演じる竜が何を考えているのかわからない。20年ぶりの連絡が「匂い」でその日の内に家を訪ねる無神経さ。しかし、唯一の部外者である妻が紡ぐ言葉たちが上手く竜の現実性と非現実性を繋いでいる。何とも奇妙な世界で正論をしっかりと言う伊藤の力強い芝居はそんなに長く映るわけではないが注目だ。 ■今や実力派俳優の横浜流星、その凄み 2つ目に紹介する作品は「MIMI」だ。監督は榊原有佑(さかきばらゆうすけ)。榊原は元理学療法士という経歴を持つが「MIMI」はその経歴が存分に発揮されている作品だ。 青年(横浜流星)が臨床心理士(阿部進之介)に話をしている。青年はミミという猫を飼っていたらしいが、それは幻想であったらしい。心理士が立花リョウ(森永悠希)ついて尋ねると青年は「全てを知っているという」その話から奇妙な事実が浮かび上がる...。 最初に述べたい。この作品はたった16分、されど16分で私は涙を流した。 この物語は真相が何処にあるのかはわからない。本当に立花リョウという人間が実存し、そのお話を基に架空の青年が立花を演じている。とも解釈出来るし、立花という人間は青年の作ったミミ、つまりは幻なのかもしれない。 どちらにせよ涙を流した理由はそこではない。横浜流星という俳優の芝居だ。 横浜は映画の中で映画の撮影シーンがあるメタ的なこの作品を見事に演じ切っている、つまり「ある青年が立花という殺人鬼を演じる」という姿を体当たりで表現しているのだ。その姿が一体どれ程、このキャラクターのバックグラウンドを考えたのだろうかと私は感銘を受けた。しかし場面が切り替わり次の瞬間、横浜は現実の稽古場にいる。そこにいるのは現実の俳優、横浜流星で彼はこの作品の台本を音読しながら静かに涙を流す。そこでハッするのだ、物語の始まりにあったナレーション、あれも全て横浜が考えた立花のバックグラウンドではなかったのだろうか、と。いや待て...それを考えたのは横浜が演じた青年なのか?気付いたら抜け出せない。私は榊原の考えた世界と横浜の芝居に捕らわれた気持ちだった。だがその後すぐに、画面の横浜は音読を中断し仲間の電話に素の姿で応じる。その俳優としての切り替えの早さ、佇まいに私は感動した。 この他にも複数の作品があるMIRRORLIAR FILMS。配信サイトを是非、チェックしてみてはいかがだろうか。今回述べた二つの作品では是非、伊藤沙莉、横浜流星に注目し世界を堪能してほしい。 文=田中諒
HOMINIS