安すぎる大学の学費により日本社会が失ったもの 学生の経済的負担が小さいことは利点だが
慶應義塾大学の伊藤公平塾長が、3月に文部科学省・中央教育審議会の特別部会で「国公私立大学の設置状態にかかわらず、大学教育の質を上げていくためには、公平な競争環境を整えることが必要。国立・公立大学の家計負担は、年間150万円程度に上げるべき」と提言しました。今回は、日本の大学と学費のあり方について考えてみましょう。 【図表を見る】世界の主要大学の1年間の学費 ■文科省は火消しに回る 4月中旬に伊藤氏の提言がメディアで明らかになると、大きな波紋を呼びました。ほぼ反対一色で、SNSやネット掲示板には次のようなコメントがあふれていました。
「学費の値上げと大学教育の質の向上がどうつながるのか。私立大学と国公立大学が公平な競争をする必要があるのか。ちょっと意味がわからない」 「値上げすると、いよいよ裕福な家庭しか大学に進学できなくなる。努力すれば国公立大学で安く学べるという今の仕組みを変えるのは反対」 文科省の担当者は、早々に「あくまで提案が議論に上がった段階で、決定事項ではない」「この内容が独り歩きするのは、われわれも本意ではない」(フジテレビ「イット!」4月22日放送より)と火消しに回りました。
火消しの甲斐あって今回の「伊藤騒動」は一件落着した印象ですが、本当に安価な学費は善、値上げは悪なのでしょうか。伊藤氏の提言を脇に置いて、日本の大学と学費のあり方についてゼロベースで考えてみましょう。 グローバル化の時代に国内の事情だけで学費を論じることはできません。まず世界の状況の確認から。世界の主要大学の1年間の学費は、以下の通りです。 アメリカやイギリスでは、受益者負担の考えから優れた大学ほど学費が高くなっています。一方ドイツでは、大半の大学で学費はゼロです。他にも北欧諸国など学費ゼロの国があり、東京大学の53万5800円が世界最安値というわけではありません。ただ、昨今の円安の影響もあり、日本は世界だけでなくアジアの中でもかなり安い部類です。