血のつながりだけが全てではない、朝ドラ『ブギウギ』で描かれる多種多様な”家族”の形
東京編で出会った人々の”家族”の形
スズ子が上京してからの東京編で印象的だったのは、下宿を営むチズ(ふせえり)と吾郎(隈本晃俊)夫婦。二人は子どもを授からなかったと話しており、スズ子と秋山美月(伊原六花)を本当の娘のように可愛がった。東京で目まぐるしい生活を送る二人にとって、チズと吾郎との食事の時間は、心安らぐ瞬間だったはず。ここでも、血のつながり云々がなくても作れる”家族の形”について考えさせられた。 さらに、登場するたびに”良いコンビ”と話題になるのが、善一(草彅剛)&麻里(市川実和子)の羽鳥夫婦。二人のテンポの良い掛け合いや和気あいあいとした雰囲気は、どこか花田家を思い起こさせる。スズ子も居心地がよいのか、たびたび夕飯をごちそうになり、すっかり羽鳥家に馴染んでいる。第57回では、麻里が3人目の子どもを妊娠。さらに賑やかになるであろう羽鳥一家が物語の楽しみの一つとなっている視聴者も多いはずだ。 また、スズ子の初恋の相手・松永(新納慎也)が、スズ子の告白を「アメリカにパートナーがいる」と断わっていたのを覚えているだろうか。パートナーの性別や国籍は明らかになっていないが、アメリカナイズの松永から出た「パートナー」という言葉は、令和の時代に”家族の形”を考える上で、もっと普遍的になっていくべき言葉と言えるだろう。 他にも、スズ子の付き人となった小夜(富田望生)は「親に捨てられた」と話し、おでん屋の伝蔵(坂田聡)は妻に逃げられ独り身に。マネージャー・五木(村上新悟)は元々遊び人だったが、夫を亡くした女性とその子どもと一緒になることを決意する。 このように『ブギウギ』では、主役級のキャラクターはもちろん、脇役の家族の存在も丁寧に描かれている。人の分だけ家族の形があり、その縁はどこまでもつながっていくのだ。それは血縁関係だけではなく、ホッと落ち着ける場所や気を許せる相手がいるならば、それはもはや家族同等の存在なのではないだろうか。 そして”家族”とは、常に一緒にいなければいけないわけでも、嫌いになってはいけない存在でもない。無理に家族をつくる必要もない。家族の存在を明らかにしてもしなくてもいい。『ブギウギ』はそんな当たり前の、でも現実ではなかなか当たり前と認識されていない、家族に対する多様な価値観がしっかりと存在している世界のように思う。 スズ子は現在、村山興行のお坊ちゃま・愛助と交際中。女手一つで大切に育てられてきた愛助と、もはや家族の一員でもあったはな湯の常連客と賑やかに育ったスズ子。違う家庭で育った二人は、これからどんな家族を作っていくのだろうか。 常に強い”スズ子愛”を語る愛助は、きっとこれから先”福来スズ子”の一番のファンであり、”花田鈴子”の最高の家族となってくれるだろう。第1回で放送され話題となった「赤子を抱くスズ子と茨田りつ子(菊地凛子)」のシーンにどうつながっていくのか。新たな家族の誕生をじっくりと見守りたいと思う。
音月 りお