え! 革命的に面白かったし、いまでもちゃんと面白いのに!(レビュー)
今回の松本人志スキャンダルでまず何が引っかかったかというと、騒動直後に「松本人志はそもそも昔から面白くもなんともない」とか言い出す人が大量に現れたことだった。 え! かつて革命的に面白かったのは当然として、いまでもちゃんと面白いのに! そう言いたくなったのはボクだけじゃなかったようで、こんなオムニバス本が発売された。 ここではデーブ・スペクターが「浜田さんがいわゆるMC的な立ち位置で番組の進行を仕切って、松本さんはその横で短い言葉を差し込みながら笑いをつくっていく」「でも、その短い言葉が誰にも真似できない天才的な発想」と言い、『水曜日のダウンタウン』の演出家・藤井健太郎も「おべっかで支えられているわけじゃなくて、ちゃんといちばん面白い」と証言。モラル的な部分で松本人志が許せないとかならわかるけど、ちゃんと番組を見ていたら理解できることすら否定していたら、他の発言の説得力もなくなるのだ。 そして、「『人を傷つける笑い』とか『暴力的でけしからん』というようなダウンタウンに対する批判については、あまりそのようには感じません。それを言い出したらドリフターズでもなんでもそういう面はあります。『笑いは政治や社会を風刺すべきで、ダウンタウンをはじめとする最近の笑いにはそれがない』などと言う人もいますが、それはその人の頭が固いだけでしょう」(西条昇)という見解についても同感で、日本のお笑いの全ての罪を松本人志のせいにするかのような論調には本当に辟易するばかりなのである。 なお、もともとこの本の執筆陣には園子温も予定されていて、ある人の反対でポシャったらしいんだが、奇しくも松本人志と同じような状況(性加害が報道されるも否定し、マスコミと裁判)にいた彼がどんなことを書いたのかは、ちょっぴり気になるところなんだが、それでも掲載しないのが正解だろうなー。 [レビュアー]吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター) 1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!! 道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(? )新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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