日本刀の魅力 後世に 神栖の細田邦信さん 研ぎ一筋 48年間活躍 本来の艶、引き出す 茨城
日本刀の魅力を後世に伝えようと、茨城県神栖市で48年間にわたり刀研師として活躍する男性がいる。「刀は日本が世界に誇る美術工芸品。興味を持つ人が増えてほしい」と語り、一振りでも多くの刀を残すため、刀と向き合う日々を送っている。 男性は、神栖市奥野谷の細田邦信さん(67)。刀を趣味にしていた祖父の影響で、子どもの頃から将来の進路の一つとして刀研師を考えていたという。 重要無形文化財保持者(人間国宝)の刀研師、故・永山光幹(こうかん)さんに19歳で弟子入り。数人の兄弟弟子と肩を並べ、砥石(といし)の作り方や刀の研ぎ方など、研師としての技術を一から学び、20代半ばには刀研ぎコンクール入賞の常連となった。 刀研ぎは、刀本来の艶を引き出すため段階に応じて目の細かい砥石に替える。研いでいる時は無心になり、体も自然に動く。刀一振りにかかる日数は平均10日ほどだが、作業が大詰めを迎えると「腫れ物を触るような」緻密な作業になるという。 数々の日本刀の中でも、特に魅力を感じるのは鎌倉時代や南北朝時代初期の作品で「刃に潤いがあり、模様が無限に見えてくる。まるで宇宙を見ているようだ」。「正宗」「行光」などの名刀を前にした時は息をのむほど圧倒されたこともあった。 これまで数多くの刀を研ぎ、その数は自身も分からないほど。水戸藩初代藩主の徳川頼房が鹿島神宮に奉納したとされる平安末期の太刀も研いだこともある。 研師から見た刀については「眺めていると精神統一させてくれる力がある。徳川家康や豊臣秀吉などの武将も、きっと同じ思いではなかったか」と戦国時代を駆け抜けた名将に思いを巡らせた。 研師としての信条は「どのような刀も助ける」。以前は刀身の広い範囲が赤黒くさびている刀をわざわざオークションで競り落とし、よみがえらせた。 細田さんは「何世代もの人が受け継いできて、今ここにあるという事実が刀の魅力。日本の宝を一振りでも多く後世に残したい」。刀を見つめながら真剣な表情で語った。
茨城新聞社