チョウが大西洋を横断、おそらく初確認、欧州からアフリカを経て南米まで7000kmの超長旅か
どこからどうやって来たのか、続々判明
過去の研究では、ヒメアカタテハが無風状態でノンストップで飛行できる距離は最大で約780キロとされていた。しかし、タラベラ氏が海岸でチョウを観察する日までの数日間の風のパターンを分析したところ、アフリカから大西洋を渡って南米まで、チョウが風の助けを得て渡ってきた可能性が示された。 ただしそのためには、チョウは前に進む羽ばたきと、風に乗って滑空するだけの羽ばたきを交互に行わなければならなかったと考えられる。これは、オオカバマダラのようなほかの渡りを行うチョウでは観察されたことがあるが、ヒメアカタテハでは記録がなかった。 だがこれは「証拠ではありますが、証明ではありません」と、タラベラ氏は言う。 となれば、次に行うのはゲノム分析だ。北米、ヨーロッパ、アフリカのヒメアカタテハのDNAと照らし合わせた結果、科学者たちは、南米で発見された個体がフランス領ギニアに最も近い北米からやってきたのではないと結論付けた。 さらに証拠を得るために、チョウの羽に付着していた花粉の粒子からDNAを分離した。これによって、南米に来る前にチョウがどの植物を訪れていたかが特定された。 十数種の植物のうち、キク科のGuiera senegalensisとナツメの仲間であるZiziphus spina-christi)という2種の植物が、西アフリカの雨期の終わりにしか咲かないことがわかった。証明は、花粉の中に隠されていた。 次に研究者らは、南米で捕獲されたチョウの羽にある水素とストロンチウムの同位体を調べた。すると、全ての個体がほぼ同じ場所で生まれていたことが確認された。 同位体の情報をすべて使って、チームは、これらのチョウに適した生息地を提供する生態系のモデルを作成した。その結果は、英国、アイルランド、フランス、ポルトガル、マリ、セネガル、ギニアビサウを指し示していた。 以上の結果を全て合わせて、科学者たちは、ヒメアカタテハが西ヨーロッパで孵化したのち西アフリカへ移動し、その後5~8日をかけて、順風に乗って大西洋を横断し、タラベラ氏が訪れていた南米の海岸に到達した可能性が極めて高いと結論付けた。