6年で健康寿命が伸びた! 岡山市長に聞く「健康長寿社会」の成果
健康長寿社会の実現
大森市長がESDを契機に推進してきた政策の中でも際立っているのが、「健康長寿社会」にまつわるもの。従来の「無病息災」という健康観を超え、病気や課題を抱えていても生きがいを持って生活する「有病息災」を理念として掲げ、健康寿命の延伸を進めている。 その中心となるのが「健康ポイント事業」。市民が運動や健康的な食生活を実践することでポイントが貯まる仕組みで、生活習慣病の予防や医療費の削減に役立っている。特にフィットネスや栄養管理サービスを提供する企業がこの事業に参加することで、市民と企業が一体となって推進している。市のデータによると、2013年から2019年までに男性の健康寿命は71.59歳から72.13歳、女性は73.20歳から75.03歳に延びており、健康施策が市民生活にポジティブな影響を与えていることが見て取れる。 交通インフラの分野は、市内の9社の交通事業者と協力し、持続可能な公共交通網の構築を目指し、高齢者や交通弱者に配慮した移動手段の維持・拡充に取り組んでいる。 ■地域経済の活性化のために 岡山市が目指す未来は、地域全体のウェルビーイングを実現する「持続可能な都市モデル」である。 そのために現在、大規模プロジェクトとして新アリーナ構想が進行中だ(2031年完成の見通し)。このアリーナはスポーツや文化の発信拠点として、地域経済の活性化に大きく貢献することが期待されている。 さらに同市は持続可能なお金の流れを生み出すために、企業のスポンサーシップや新しいビジネスモデルの導入などで民間との連携を進めている。例えば観光分野では「桃太郎伝説」を観光資源として用いたイベントやツアー展開など、地域資源を活用することで地域の活性化を図り、地域経済が循環する仕組みづくりを目指している。 こうした一連の取り組みは、経済、環境、社会の三位一体を目指すSDGsの理念を体現している。SDGS未来都市の選定時に示した三位一体の体系図が参考になる。 その成功の裏には、大森市長の強力なリーダーシップがある。市長は、「市民の生活全体を幅広く見つつ、常に最適な判断を下す必要がある」と述べ、バランスを取りながら持続可能な都市づくりを進める難しさを認識している。この視点が同市の成功にとって最も重要な要素であり、持続可能な社会を築くためのカギとなっている。 ■ポストSDGsに向けたヒント 岡山市の取り組みは、SDGsが掲げる持続可能な目標を超え、次なる「ポストSDGs時代」を見据えたビジョンを形にしつつあるといえる。 ポストSDGs時代において求められるのは、単なる環境や経済の持続可能性だけでなく、地域社会に根ざしたウェルビーイング(幸福)の実現である。それをビジネスの創造性とイノベーションで実現するべく、企業が協力して、地域資源や文化を最大限に活かしながら持続可能な経済の循環を創り出すことが鍵となる。同市の挑戦が実を結べば、他の自治体にとってもひとつの道標となるであろう。
笹谷秀光