T.T がくりなす、応用考古学の庭 イサム・ノグチの石庭で開催
「T.T (Taiga Takahashi)」 によるプロジェクト「T.T I-A 02 遺物の声を聴く 応用考古学の庭」が、東京・青山の「草月会館」にて2024年12月22日から29日 まで開催されている。 【写真】イサム・ノグチの石庭で服を展示
1995年生まれのデザイナー/アーティストの高橋大雅は、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズでファッションを学び、2017年にニューヨークでブランド「T.T」を設立した。高橋は古美術品や1900年代のヴィンテージ衣服を収集し、考古学の観点から研究。「応用考古学」と名付けたその活動は、ファッションデザインにとどまらず、彫刻の制作や京都・祇園に総合芸術空間「T.T」をオープンするなどその表現を広げていた。惜しくも2022年、高橋は27歳の若さでこの世を去ったが、彼の思想は今も「T.T」に受け継がれている。 これまで「T.T」は、祇園の京都建仁寺塔頭両足院や、西陣の老舗「細尾」が運営する「HOSOO GALLERY」、韓国・ソウルの「cociety」などで展示を行ってきた。2024年4月には、高橋の遺産を基盤に新たなクリエイティブ活動を展開するプラットフォーム「T.T I-A(Institution of Archeology)」が発足。その初回展示に続き、第2弾となる今回の舞台となるのは、丹下健三設計の草月会館ロビーに広がるイサム・ノグチの石庭「天国」だ。 石庭には、高橋が制作した立体作品や蒐集物、「T.T」の衣服が、イサム・ノグチによる空間と呼応するように展示されている。高橋の代表作のひとつである「終わりのない時間 無限塔」は、イサム・ノグチの彫刻を数多く手掛けた石彫家、和泉正敏が制作した玄武岩彫刻だ。古代からの布のドレープ表現に焦点を当てた「時間の天衣」は、それぞれ形も素材(ブロンズや玄武岩)も異なる5点が配置されているが、それらを支える台座にも注目したい。岩肌を磨いたものから荒々しいものまで一つひとつ表情は異なるが、自然のままのもの、矢で割ったもの、機械で割ったものなど、同じくさまざまな岩肌を見ることができるイサム・ノグチの石庭に共鳴している。 石庭には、『時間の天衣』の元となった奈良の秋篠寺に伝わる「救脱菩薩立像の衣の残欠」など、貴重な蒐集物も陳列。また、天井から吊るされた1910~50年代のヴィンテージ衣服は、産業革命以降のデザインの変遷や社会情勢の変容を物語っている。石庭の最上部には「T.T」の衣服が展示され、そのインスピレーションとなったヴィンテージ服との対話を通じて、過去を検証しながら、時代精神を現代へ再接続しようとするブランドの試みを見ることができる。 この石庭に置かれたすべての作品を見終わると、ひとつの事実に気づくだろう。それは、すべてのオブジェの下にガラスのパネルが差し込まれ、床から離れた形で展示されていることだ。数百キロはある彫刻作品でさえ、ガラスの上に浮かんでいるように見える。 すべてが宙に浮遊しているような不可思議な感覚は、「天国」と名付けられたこの石庭にふさわしい。この神秘的な空間を設計したのは、妹島和世建築設計事務所・SANAA出身の建築士、周防貴之。空間全体で観る者をもてなす彼のアプローチもまた、作品だけでなく環境全体を見事に演出したイサム・ノグチに通じるものがある。草月流第三代家元・勅使河原宏はかつて、そんなイサム・ノグチを「現代の利休」とたとえた。茶道を総合芸術へと昇華した利休は、イサム・ノグチとともに、高橋に強い影響を与えた人物だ。 2階へ上がると、祇園の総合芸術空間「T.T」にある立礼茶室「然美」が、草月流とのコラボレーションにより「竹窓の然美」として新たな形で訪れる人々を迎える。無数のしなる竹による空間づくりは、勅使河原宏による1993年の「パリ大茶会」から得た着想によるものだ。そこでは、帆布を石膏に浸し、意図的に襞を寄せて陰影を作り出した原型から展開された高橋の作品シリーズ「陰翳礼讃」も展示されている。竹、彫刻、空間が織り成す陰の深みに浸りながら、4種の日本茶と菓子のペアリングコースを楽しむことができる(要予約)。 会場では、調香師Jean Michel Loriersのお香、陶芸家・福村龍太のお香立て、京菓子司 金谷正廣の真盛豆など、今展を記念したオリジナルアイテムが販売。12月23日には、パリを拠点とするサウンド・アーティストTomoko Sauvageによるオープニング・ライブパフォーマンスも開催され、まさに五感をもって「T.T」の総合芸術を体験できる特別な展示となった。