映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」アメリカの分断を近未来の内戦で描く
大統領への単独会見を狙って首都ワシントンへ
戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)と記者のジョエル(ワグネル・モウラ) は、この14 カ月の間に一度もメディアの取材を受けていない大統領への単独会見を狙ってニューヨークからワシントンへと向かう。 激しい戦闘が続くなかで首都までたどり着くためにはかなりの迂回ルートを取らねばならず、2人はそのアドバイスをリーのメンターでもあるベテラン記者サミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)に求める。 結局、サミーは同行することになり、さらにリーが取材中に出会った若い戦場カメラマン志望のジェシー(ケイリー・スピーニー)も加わり、4人は西部勢力の前線基地シャーロッツビルに向けて、車に乗り込んで出発する。 途中、リーたちは燃料補給のためガソリンスタンドに立ち寄るが、そこには不穏な雰囲気が漂っていた。ジェシーは武装した男たちが「略奪者」と呼んでいる2人の人間を拷問している場所を目撃する。しかし戦場カメラマン志望のジェシーはシャッターを切ることができなかった。一方、リーは冷静に現場をカメラに収めていく。 道中、激しい銃撃戦に遭遇したり、正体不明のスナイパーの狙撃の現場に立ち会ったりしながら、リーをリスペクトするジェシーは次第に戦場カメラマンとしての力を発揮するようになっていく。
「分断」を超えた「崩壊」
その後、民間人の遺体を大量に処理する不審な人間たちによって命を脅かされる危機に陥るが、サミーの機転によって脱出。しかしサミーは銃弾を受け、瀕死の状態に陥ってしまう。 一行はようやく西部勢力が集結するシャーロッツビルに到着したが、すでに最後の進軍が始まっていた。リーたちも西部勢力ともに大統領の立て籠もる首都ワシントンへと向かうのだが……。 作品の中盤までは、このように戦闘そのものよりも、ニューヨークからワシントンへ向かう道すがらリーたちが目撃する異様な出来事の描写に力点が置かれている。それらは内戦がもたらす分断という現実であり、一種のロードムービーの体裁をとりながら、リーたちの視点からこのシリアスな状況が描かれていく。 意味深いのは、道中で次々と出会う武器を手にした人間たちが、どちらの陣営に属するのかがはっきりとは描かれていない点だ。 そこには、内戦による敵味方の「戦闘」よりも、さらに複雑に絡み合った人々の「分断」を提示したいという製作者側の意図が如実に感じられる。監督のアレックス・ガーランドはそのことについては次のように語る。 「現代の内戦とは、すべてが崩壊して粉々に分裂することです。南と北で争うような昔の南北戦争の繰り返しではありません。アメリカや世界の国々が、かつての南北戦争のように明確な境界線で分裂する危機にあるとは思いません。世界が直面している危機はそれではなく、われわれは崩壊し、粉々になる危機に直面しているのです」 ・首都ワシントンでの市街戦シーン 実は、作品のなかでは内戦がなぜ起きたのか、そして今後どうなっていくのかについて、ほとんど言及されてはいない。現在のリアルな政治状況ではカリフォルニア州とテキサス州が同盟を組むというのは非現実的な設定だが、それについても明確な理由は語られていない。 それよりも、監督のアレックス・ガーランドは、内戦による「分断」が生み出す、人々の非日常的な行動や心理状態を表現することに重きを置いているように思える。そして、それがひいては国家の崩壊にも繋がると警鐘を鳴らしているようにも。