参加者同士で一緒に塔を制作するなどの共同作業が多い

　インターネット上の仮想空間「メタバース」を使った不登校の児童生徒に対する民間の支援活動が、静岡県内でも広がりつつある。不登校の小中学生は県内に1万人近くいて、このうち3500人はどこにもつながっていないとされる。「時には現実世界以上の楽しいコミュニケーションができ、居場所を感じてもらうのにこれ以上ない場所」とも注目されるメタバース。自宅にいながら仲間や応援してくれる大人の存在を感じられる場として、活用法が注目を集めている。 　NPO法人浜松子どもとメディアリテラシー研究所（浜松市中央区、長沢弘子理事長）は8月から、不登校支援に取り組む「いわたツナガル居場所ネットワーク」（磐田市）と連携して、仮想空間でブロックを積み、建物を作るなどするゲーム「マインクラフト」を続けている。毎回小学生数人が参加し、共同作業で美しい塔を建てたり、襲撃してきたモンスターを退治したりしている。10月上旬の回に参加した小学6年の男子は「皆で協力し合って何かすることが楽しかった」と振り返り、小3の女子は「狩りをするのが好き」と話した。 　同研究所スタッフの平沢文江さん＝浜松市天竜区＝が水窪小の放課後こども教室の際に対面で実施したところ好評だったため、今回の仮想空間での不登校支援に活用した。参加者が事前にLINEを登録してグループ通話できるようにし、個々のスキルに幅があることを想定して多様な活動を用意するなど、環境を整えている。平沢さんは「子どものコミュニケーションが生まれ、深まることが重要。対面と同様の状況に近づけるよう工夫した」と話す。 　京都府の一般社団法人「プレプラ」は、今年1～2月の夜間、全国の不登校の中高生を対象に、VR（仮想現実）の機材を貸し出すプログラム「ぶいきゃん」を実施した。約10人が参加し、ゴーグルを装着して、仲間の存在を近くに感じながら世界旅行などで親睦を深めた。「知識は現実世界に持ち帰ることができ、心理的担保になる」との狙いから講義などの学習にも臨んだ。参加者は静岡県からもみられ「家族以外とも会話できるようになった」などの感想が寄せられている。 　スタッフは20～30代で傾聴技術や不登校の子の心理について学んだメタバース経験者。各参加者に付きそうサポーターも含め、全国各地から距離に縛られず、有志が協力している。もとは代表理事の水瀬ゆずさん（立命館大デザイン科学研究所客員助教）がメタバース仲間と「こんな空間があったら良い」と楽しみながら作り上げたという。「VRを使って違う世界に入ることはインパクトが大きく、コミュニケーションの取りやすさにつながっている。民間ならではの遊び心が詰まった仕掛けができた」と話す。同法人は京都府などとプログラムを共催するなど行政と連携の実績があり、実際に高校に復帰した生徒もいる。 　運営側に求められる工夫としては、参加者にインターネットリテラシーに関する講演を行うことや、LINEの公式アカウントなど参加者や保護者が気軽に問い合わせできる連絡手段の創設など、「トラブルのリスクや参加者の心的負担の軽減が必要」と話す。