「声優アニメディア」休刊に寄せて 2004年の創刊から変化した、声優雑誌の役割と課題
「声優アニメディア」が6月10日発売の「声優アニメディア 夏号」を最後に休刊となる。ネットに読者を奪われた紙の雑誌が、次々と休刊になっている流れに沿ったものとも言えるが、声優人気に陰りは見えず逆に注目は高まる一方。活躍する場となっているアニメも全世界的な盛り上がりを見せているだけに、どうして今なのかといった疑問も浮かぶ。声優雑誌はどこに行くのか? 【画像】水樹奈々らの名前があがる、2004年に創刊された「声優アニメディア VOLUME.1」 水樹奈々、田村ゆかり、清水愛といった女性声優の名前が、大きな文字でずらりと並んでいる。保志総一朗、三木眞一郎、関智一といった男性声優の名前も見える。2004年に創刊された「声優アニメディア VOLUME.1」の表紙を見ると、その頃にどのようなアニメが放送されていて、誰が声優として活躍していたかを思い出せる。 これが、現在発行されている最新号「声優アニメディア 春号」(メイン画像)では大きく違ってくる。フロントでは『忘却バッテリー』で清峰葉流火を演じている増田俊樹が、デニムジャケットを羽織ってクールに決めている。バックでは声優でアーティスト活動も行っている大西亜玖璃が、ファンシーな衣装でぬいぐるみに囲まれた姿で登場。編集部が「いちばんグラビアがきれいな声優誌」とうたっているだけの仕上がりを見せてくれる。 創刊号のようにズラリと名前が並ぶこともない。増田や大西の写真にはそれぞれの名前が被る程度。雑誌というより写真集のような雰囲気が漂う。2023年9月に月刊から季刊化となった時から採用されたこのデザインは、ファンが声優雑誌に求めるものとして、ぎっしりと詰め込まれた最新の情報ではなく、1枚1枚が丁寧に仕上げられた推し声優のビジュアルだと、編集部が判断したことを伺わせる。 確かに、ファッションやロケーションにも目が行き届いたグラビアと、添えられるインタビューは掲載されているそれぞれの声優のファンには嬉しいものだ。逆に推し声優が載っていない時に手に取るかというと、大いに迷う。特集によって部数が上下するのは雑誌の宿命で、そこをカバーするため連載やコラムを散りばめ、固定読者を得ようとするのが常道だが、現在の「声優アニメディア」は連載が多くない。 「声優アニメディア」より10年早く創刊された声優雑誌のパイオニア、「月刊声優グランプリ」は、今も表紙にズラリと声優たちの名前が並んでいる。連載もコラムも豊富で、イベントリポートも掲載されている。自分の関心に引っかかってくる記事が何かひとつはありそう。1冊でその時々の声優とアニメの状況もなんとなくつかめる。 「声優アニメディア」もリニューアルまでは同じ路線で競い合ってきたが、ネットメディアの台頭もあって雑誌のマーケットが縮小気味の中で、読者に選ばれるために違いを出そうとして、グラビア重視に舵を切ったように見える。 ただ、そこには「TVガイドVOICE STARS」のような情報性よりビジュアル性を重視したムックがあって、抜きん出ることは難しかった。「anan」が津田健次郎を表紙に起用したように、ジャンル誌ではないところで声優の記事やグラビアを目にすることも多くなった。Anime Japanのステージイベントや、新作アニメの先行上映イベントに声優が登壇することも多くなり、雑誌のグラビアを介さなくても声優と触れあえるようになった。 声優に関する情報発信なら、「アニメージュ」「月刊Newtype」と並んで老舗の「月刊アニメディア」を通して続けていける。「声優アニメディア」を発行しているイードには、別に「アニメ!アニメ!」といったオンラインのアニメサイトもある。それらにリソースを集中する方が、組織のスリム化にも内容の充実にも繋がる。「声優アニメディア」の休刊には、そうした経営判断があったのかもしれない。 こう見ると、休刊には「声優アニメディア」固有の理由が大きいようにも見えるが、紙の雑誌がどんどんと厳しくなっている状況自体は、出版業界全体を覆っている。他の声優雑誌にも影響が及んでくる可能性はゼロではない。 ネットには「アニメ!アニメ!」だけでなく、アニメを専門に取り上げるサイトが幾つもあって、番組のスタート時などに出演声優がインタビューに答えている。イベントのリポートも細かく掲載されていて、居ながらにして様々な情報を得ることができる。 文化放送が1990年代半ばに「A&Gゾーン」として強化し始めたアニメに関するラジオ番組は今も隆盛で、ネット配信による「超!A&G+」も登場して、声優の言葉を直接聞くことができる。そうした状況で、いつまでお金を払って雑誌を購読してくれるかという問題が、じわじわと広がっていくことは不可避だ。 一般社団法人日本雑誌協会が発表している印刷証明付部数で、「声優グランプリ」は2024年1月~3月の集計が1万7677部となっている。直前の2023年10月~12月が1万2954部だから、年明けに回復したといえるが、3万部近くあったピーク時より減っていることは確かだ。季刊化された「声優アニメディア」と違い月刊誌を維持しているため、新作アニメの情報やイベントリポートも発信できる強みもある。 ただ、情報の鮮度ならネットメディアには及ばない。その分を声優グラビアのような付加価値で引っ張る雑誌メディアを有り難がる意識が、ネットで見られれば十分といった意識にとって代わられた時、「声優アニメディア」に限らず雑誌メディアは命脈を絶たれる。それは新聞も同様だが、専門性の高い情報なり、遠くにいては知ることができない市井の情報なりを伝えたいというメディア側の思いがあり、読者の側の知りたいという願いがあれば、新聞も存在を維持していける。 同じように声優雑誌も、推し声優がスタイリストのコーディネイトで美しく整えられた姿で登場するグラビアなり、熱く支持している声優の連載があれば、手に取る価値があると思ってくれる人がいるかもしれない。 ネットメディアでは、知名度のある人物やバリューのある事象の記事は読まれるが、これから伸びていくだろう新鋭が割って入ることは難しい。雑誌ならそうした将来有望な声優にページを割いて紹介して推していける。広い間口を通して大勢を送り出し、声優の世界を豊かなものにしていけるのだ。 それを編集側が役割として意識し、読者の方もそこに価値を見出すことによって声優雑誌が雑誌として続いていく可能性も見える。掲載されたグラビアや連載をフォトブックなり単行本としてまとめて刊行するための“苗床”としての機能もある。「月刊アニメディア」のような親媒体を持たない「声優グランプリ」ならなおのこと、雑誌として存在する意味がある。そういった理由から、しばらくは続いてくれるものと思いたい。 本来は声や演技で勝負するはずの声優に、グラビア映えのようなものを求める点がルッキズムとして捉えられる可能性も皆無ではない。そうした風潮を声優雑誌が助長しているとしたら、これからの時代にそぐわないといった声を浴びることもあるだろう。受け止めるファンも、起用するアニメ業界も、紹介するアニメメディアも対応を考えていく必要がある。 一方で、アイドルとは一線を画されていた声優にスポットを当て、プロのカメラマンとスタイリストを使い、最高のロケーションで極限まで魅力を引き出そうとした声優雑誌の功績は評価されるべきだ。そこの部分はしっかりと維持しつつ、変わる時代の中で求められる声優像をどのように提示していけるかが、声優雑誌の将来にとって大切なことかもしれない。
タニグチリウイチ