「整形顔だらけの学園モノ」にウンザリしたら見るべきドラマ “リアルな思春期”を自然体の子役たちが好演「クラスメイトの女子、全員好きでした」
我が強く、見てくれもアレなので、小・中学校では男子から確実に嫌われた。それでも「面白い」「すごい」とこっそり褒めてくれた男子が2人だけいた。今、何をしているか知らんが、山田君と花本君がもし生きていたら御礼を言いたい。「あなたの言葉で自己肯定できましたよ」と。そんな思春期を懐かしく思い出したのは「クラスメイトの女子、全員好きでした」のせいだ。 【写真をみる】「こんな女の子いたよなあ…」 “素朴な可愛らしさ”がまぶしい子役陣
主人公・枝松脛男(すねお)は小説家志望のフリーター。中学生時代に埋めたタイムカプセルに入っていたノートが間違えて送られてきたのがすべての始まり。そこには女子が書いたと思しき小説「春と群青」が。脛男は出来心でこれを清書して、文学賞に応募。ところがうっかり受賞しちゃって、タナボタの作家人生が始まる。小心者の脛男は罪悪感に苛まれる。中学時代の同級生を思い起こしながら、本当の作者を探して、盗作したことを謝らなければ……。 タイトルに一瞬微妙な薄気味悪さを覚えたが、観始めたら一気に吹き飛んだ。初回から面白かった。それもこれも、脛男を演じる木村昴と及川桃利(中学時代)のおかげだ。自己肯定感低めだが、ゆがんだり、いじけてはいない。先入観で人を判断せず、むしろ長所や個性に敬意を払う。そんな加点式の優しい脛男を、二人が丁度いい湿度でコミカルに演じる。こういう男子がいたら救われる女子が必ずいるのだよ、私のように。
毎回、クラスメイトの女子に(女子だけではなく男子もいる)好意や敬意を覚えたエピソードが描かれていくが、絶妙なキャスティングにうなる。承認欲求でギラギラした子役が一人もいない。素朴さと各々の個性が自然に醸し出されている気がする。中学校の教室や体育館の匂いが鼻の奥によみがえるようなリアリティーだ。 最近の学園モノの生徒たちは整形顔だらけ。制作側の趣味なのか、不自然な顔ばかり集める傾向がある中、この作品は物語の本筋を表現できる、自然体で素顔の子役を厳選。そこがいい。 で、その子らが大人になった姿を演じる役者陣もしっくり。野呂佳代、橋本淳、長井短、石田ニコルに剛力彩芽……。さまつと思われがちだが、説得力のある相似形の配役は制作陣の良心と矜持だなと感心している。 さて、盗作した罪の意識で生きた心地がしない現在の脛男を支えるのは、担当編集の片山(新川優愛)。盗作の秘密を共有(&やや脅迫)するのは、同じく編集の猫魔(結城モエ)と、脛男の隣人・金子(前原滉)。日和見的で調子のいい編集長(阪田マサノブ)にやんわりいびられながら、片山は作家の脛男を守ろうと奮闘する。 そもそも脛男が加点式になったのは、父(皆川猿時)の教えが源。今モテなくても、女子の顔や話したこと、過ごした時間をずっと覚えておけば大切な宝物になる、と。他人の評価よりも自分の感性で接する、加点式の人生訓が功を奏したわけだ。 爪切男原作、賀来賢人主演の「死にたい夜にかぎって」も好みだったし、次もあるなら期待しちゃう。「爪切男原作ドラマにハズレなし」と断言させてほしいな。
吉田 潮(よしだ・うしお) テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。 「週刊新潮」2024年9月12日号 掲載
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