常田大希のヴィジョンを考察 MILLENNIUM PARADE改名の背景、新章の狙い
第四形態への進化
常田にとっての20歳の頃というのは、まさに彼がアーティストとして本格的に活動を始めた時期にあたる。もちろん中学・高校の頃からバンドを組んでオリジナル楽曲を制作したり、17歳の時にはリットーミュージック主催のベース・コンテストで準グランプリを受賞したり、東京藝術大学在籍時からの数年は小澤征爾が主宰する国際室内楽アカデミーにチェロ奏者として参加、北京や上海での公演などに参加したり等々、10代の頃からさまざまな音楽活動をしていたわけだけど、藝大を1年で辞めたのち、2013年7月にSrv.Vinci名義でYouTubeに公開した「abuku」(後にKing Gnuの「泡」としてリリースされる楽曲のプロトタイプでもある)が、今に至るキャリアの起点であったと言っていい。 同時期に立ち上げたPERIMETRONも、当初は自身の作品をリリースする音楽レーベルとして設定していたところから、佐々木集とOSRIN(映像作家)がジョインすることでクリエイティヴ・レーベルへと発展、東京のみならず日本のカルチャーに独自の一石を投じ、牽引する存在になっていったのはご存知の通りだ。一方でSrv.Vinciはやがて、自分達の創作的自由の基盤を獲得するべく日本のポップシーンの文脈で闘いつつ、彼のルーツでもあるオルタナティヴなロックバンド像を体現していくKing Gnuと、よりエクスペリメンタルな音楽的挑戦にフォーカスしていくDaiki Tsuneta Millennium Parade(DTMP)というふたつの形態へと分岐。そして、そのDTMPが、音楽のみならず映像/ヴィジュアル表現を担当するアーティスト達も「メンバー」として巻き込んで拡大的に発展・進化したものが、millennium paradeだった。 そう考えると、実は今回のmillennium paradeからMILLENNIUM PARADEへのトランスフォームは、第二形態への進化というよりも第四形態への進化と言ったほうが正しいという捉え方もできるわけだけど、DTMPからmillennium paradeへの進化の際にDMTP作品(2016年リリースのアルバム『 ꉣꅔꎡꅔꁕꁄとして明確に「過去のもの」であることが示唆された上で作品自体はそのまま残されたというのは、きっと「millennium parade時代の表現はひとつの完成を見た上で、MILLENNIUM PARADEという新たなフェーズへと進んだ」ことを強く明示したかったからこそなのだろう。もしかしたら、前述した通り2021年10月に常田が「ここから潜伏期間に入ります。また第二形態でお会いしましょ」とポストしてから現実世界では2年半ほどしか経っていないものの、精神の時の部屋のように、彼の中では千年の時を経過したくらいの感覚でドラスティックな進化を果たしている、ということを暗に示しているのかもしれないなとも思う。 MILLENNIUM PARADEとしての今後の表現が具体的にどんなものになるのかは現段階では明らかになっていないし、第1弾シングルとなる「GOLDENWEEK」がどんなサウンドデザインを持つ楽曲なのか――それこそこの曲に海外のアーティストがフィーチャリングされているのかどうかもわからないけれど、ただ、この1年の間、常田のInstagramのストーリーズにはダニエル・シーザーやデンゼル・カリーなどの様々なアーティストが登場し、彼らと制作を共にしているであろうことが示唆されている。 本稿の最初に「グローバルでの活動を本格化させることが明らかになった」という書き方をしたけれど、このプロジェクトはmillennium parade時代から海外での活動を視野に入れて動いていることが明言されていたし、そもそも彼らが掲げる「トーキョー・カオティック」というコンセプト自体、ドメスティックなものであるという意味ではなく、「国内外の文化が混沌的に混ざり合う東京の姿と、そこから生まれる新しいアート/カルチャー」という意味合いで用いられているもの。ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄのアーティスト写真もそうだけど、これまでのミレパにおいて度々登場してきた「鬼」というモチーフが「分断を超えて多様な価値観を持つ者同士を結び、新しい時代を切り拓く存在」という意味合いで使われていたことも含め、ミレパは初期からそのマインドで動いてきたプロジェクトであることは間違いない。そういった様々なことを踏まえて考えると、今回のMILLENNIUM PARADEへのトランスフォームは、国境を超えてより多種多様なバックグラウンドを持つアーティスト達と自由に混ざり合いながら、さらにラディカルに、アグレッシヴに、新しい表現を追究していくものとして改めてキックオフを遂げたということなのだろう。 MILLENNIUM PARADEが今後、どのような未知なる景色を切り開いていくのか、楽しみでならない。 MILLENNIUM PARADE 1stシングル「GOLDENWEEK」 発売日:2024年5月10日
Tomoko Ariizumi